[コスナー作戦担当区 12時05分]
"Operration-Costner" 014°03'30"N 231°28'19"E 1205hrs. 24 Apr 1995


ラウンドハンマー作戦が発動されるのとほぼ同時にコスナー作戦、連合国海上部隊の運河通過護衛作戦が開始された。予定時間よりも15分早めることになったのは、ベルカ軍の反撃を恐れてのことだが、それよりも南部での作戦が予想以上に上手くいった事に気をよくした上層部の強硬な姿勢が原因だ。その分、準備不足が露呈してしまったが、それは結果としてサイファーの判断が正しかったことの証明になった。作戦開始が早まった為に、一部の部隊に到着が遅れる事態が現れており、そういった部隊の代わりにゲルニコス作戦から続けて参加した部隊が当てられることになった。
<<こちらケストレル艦長ウィーカーだ。全乗組員、そのまま任務を続けながら聞け>>
さっきの高飛車な言い草の艦長の演説を聞きながら、ラリーは自分の機体を艦隊の上空で旋回させているサイファーの後ろにつけていた。先ほどは、やけに積極的なサイファーの発言に驚いたりもしたが、その分どこか余所余所しかった傭兵たちの態度が変わったのは良かった。あの偽者騒動以来、どこか壁のようなものがあったのが事実だったが、さっきのサピンの障害排除以来、無線でも話しかけてくる傭兵が多くなった。
<<サイファー、さっきの台詞には俺感動したぜ。そこで、感動の対価に俺と一杯…>>
まあ、こいつの反応はいつもの通り。どうやら、さっきのサイファーのことでこちらになじんでしまったダルモエードが、いろいろと話をしている。戦況や、これまでの戦いではなく、さっきの<少佐>を名乗った男の悪口が全般だ。今までの鬱憤を晴らすかのように話す姿に、少し引いている奴もいるが、おおむね気に入られているようだ。ま、無線機ですすり泣く声が聞こえれば、誰でも放っては置けないってもんさ。
<<作戦参加機へ、運河を通過する連合軍艦艇を護衛しろ。ミスはなし、やり直しもなしだ!>>
<<了解っ!しっかり守ってやるっす!>>
トールのエクストラトムキャット(本人命名)が、艦隊の上空できれいな飛行機雲を描いて飛んでいく。燃料の心配は要らないそうだ。
砂漠でも、空母の上でも着陸できるから、だそうだ。実際に、以前エプロンに垂直着陸したトムキャットに一時、基地中が騒然となった。
<<レーダーに反応!本空域に接近する複数の機影を確認!>>
AWACSの警告を聞いて、レーダーの表示を広域に切り替えると、艦隊の正面を左右から挟みこむ形で包囲する敵の反応。かなりの数だ。
「どうやら、ベルカは意地でもこの運河を通したくないみたいだな」
サイファーの機体が正面右の敵に向かう。一気に突入して、攻撃位置に付かせないつもりかな。ラリーは自らに気合を込める意味でも、他の奴らに合図する意味でも声を上げた。
「やるぞ!」
<<総員、対空戦闘配置!全方位の警戒態勢を厳にしろ!>>
<<ベルカの狙いは我々の艦隊だ。各員、対応を急げ!敵航空機の攻撃に気をつけろ!>>
心地よい加速に押された俺の愛機が敵の前方に出たサイファーの後を追う。正面の敵機を独特の攻撃法で撃墜したサイファーの後ろから、生き残りを狙う。正面からエンジンを打ち抜かれたF-1が炎を吐きながら墜ちてゆく。残り1機は、さらに後ろにいたフェンリルに落とされた。反対側の敵機もシンキチたちのいる部隊に襲われ、既にレーダーから消滅している。
《運河への侵入を許したのか。だが、これ以上は進ませない》
《艦隊の侵入は、なんとしてでも阻止する。連合軍ごときに、ベルカが負けるものか!》
更に北側の敵機が艦隊に向かって突っ込んでくる。今回も、両側から挟みこむ形で、こちらの戦力はまだ左右に展開したまま。そのまま横を突く形に接近していく。敵編隊、低空で侵入する機と、こちらに向かう機の二手に分かれ、こちらに向かってきた機が機銃を乱射しながら突撃してくる。ブレイクして、回避。格闘戦に持ち込む。正面で旋回するMirage2000Dの腹に向かって機銃を発射。通り過ぎた敵機が黒煙を吐いたが、撃墜には至らなかったようだ。低空へと逃げていったそこへ、ダルモエードのA-10からサイドワインダーが突き刺さる。空中に火球が出現し、地面に破片が降り注ぐ。
<<こちらダルモエード3、一機撃墜です!>>
<<ナイスキル!だけど艦隊に向かった奴が厄介っす>>
フェンリルの言葉に首をめぐらせると、艦隊から対空砲火の火線が激しく上がっている。
<<対空射撃を続けろ!敵を近づけるな!>>
<<ここでやられては今までの苦労が水の泡だ。全員、気を引き締めろ!>>
<<対空砲火がきつすぎる。艦隊の近くには近づけないぞ!>>
仕方ない、近づいて中距離ミサイルで仕留めるか。その時、生き残っていた最後の敵機が後ろから襲い掛かってきた。バレルロールで機銃を回避するが、更に敵機は追尾してくる。その後ろにはサイファーの機体。右旋回するように見せかけ、逆Gをかけて左に旋回する。追いつけなかった敵機に、サイファーのミサイルが突き刺さる。だが、それでも敵の攻撃はとどまる事を知らない。今度は、北側から4機の編隊。
《アルセム1からアルセム隊。連合軍機を撃墜する》
《アルセム2、了解》
《3、及び4了解》
運河のちょうど上空で2機ずつ東西に分かれ、2機がこちらに接近してくる。こちらも、合わせるかのようにガルムの2機だけで対応する。
<<中距離ミサイル、1基ずつ>>
サイファーの合図で、まず、正面からの中距離ミサイル攻撃。発射した直後にアラームが鳴り響く。向こうも発射したようだ。サイファーは回避には移らず、直進する。こちらも合わせ、タイミングを合わせてバレルロール。キャノピーのすぐ近くをミサイルが通り過ぎていった。どうやら、こちらのミサイルは当たらなかったらしい。正面に2機の敵機。サイファーのワンテンポ速いガンを始まりに、お互いに機銃を撃ち合い、轟音と共にすれ違う。被弾なし、命中弾も……なし。2機が同じ旋回でこちらを追尾してくる。
《相手は、ウスティオの傭兵だ。気を引き締めてかかれ》
《ベルデ、了解》
相手の無線が混線している。Su-272機の連携攻撃に、こちらはブレイクして回避したが、敵がサイファーの後ろに食いつていった。その後ろを追おうとしたが、回避したときに速度が落ちてしまいすぐには追いつけない。舌打ちしつつ、A/Bで速度を上げながら敵機の後ろを追う。サイファーが、急旋回したと同時に、敵機のうち1機が近距離まで接近してガンアタック。もう1機は外側を回って援護、といった具合になかなか逃げ切れない戦いを強いられ、徐々に追い詰められていくサイファーの姿が見える。オーバーシュートを狙った相棒に、コブラで後ろを維持した敵に更に逃げられないところまで追い詰められていく。
(冗談じゃない。こんなところで相棒が落とされてたまるか)
兵装システムから、残っていた中距離ミサイルの最後の2発を選択、敵機をロックする。発射したが、敵機は回避行動に移る前にミサイルを発射していった。相棒に向かっていく、死の矢。
「ミサイルだ!ブレイクしろ、サイファー!」
蒼のF/A-18Cが、フレアを放出しながら機体を左右に揺らしていく。やがて急激な機動に機が失速し、機首の位置が落ち始めたところへ敵のミサイルが接近、フレアの近くを飛ぶ相棒の機体のすぐそばを通る。近接信管が作動するかと思ったが、その前に降下したサイファーの機体の上を通り過ぎた。そして、相棒の降下した先は、先ほどの2機が回避機動から攻撃に移る瞬間だった。ガンに上から撃ち抜かれた敵機は、黒煙を吹いたが、撃墜は出来なかった。
《しまった、機関砲を喰らった!》
《こちらアルセム3、敵編隊に追い詰められつつあり。援軍を!》
《なかなかやるな…仕方がない、一時撤退し、再度戦闘に挑む。アルセム隊、後退せよ》
先ほどの被弾機を庇うように、無傷の機体が飛びながら北側へと撤退していった。緊張の息を吐きながら、艦隊の上空に接近してきた敵機を追い払う為に進路をとる。もし、さっきのサイファーの攻撃が効いていなかった、かなり脅威になっていただろう。それほどの腕前の連中だった。
後ろから、サイファーが追いついてくる。
<<さっきはありがとう>>
無線で声を掛けられたときは、それがサイファーの声だと思えなかったが、すぐに理解して返事を返す。
「いや、僚機として当然だ」
それっきり、お互い黙ってしまう。俺は、今サイファーが言った事を考えていた。
(しかし、相棒が『ありがとう』、か。結構、大丈夫そうなんじゃないか?)
司令の言っていたようなことがあったとは到底思えないその態度に、俺は少し安心していたのかもしれない。俺たち、傭兵が教えるべき事を、相棒はもはや必要ないまでに、乗り越えてしまったのだろうかと。
<<こちらイーグルアイ。ガルム隊、君たちの近くに新たな敵の反応、4を確認。迎撃せよ>>
AWACSからの指示に、一時的な思考を中断して指示された敵機を追う。俺たちの正面、低空で侵入している敵機の姿が見えた。


GRUN
Belkan Air Force 10th Air Division 8th Tactical Fighter SQ


《各機、状況を確認》
《こちらグリューン2、連合軍は既に運河の中央に到達している》
《上空は敵機が多数。先発した部隊がうまく責め切れてない》
《ってことは、なかなか腕の立つ奴がいるようだな。楽しませてもらえそうだ》
ベルンハルト・シュミッド。元は街のチンピラでありながら、ベルカ空軍においてエースパイロットとして数えられる腕利き。彼自身が持つ優れた情報分析能力で、戦いにおいて臨機応変に生き延びてきた。その、彼が乗る機体と、部隊の全員が対艦ミサイルを2発、中距離対空ミサイルを4発搭載している。グリューン隊が命じられたのは、敵航空戦力の減衰と、余裕があれば艦艇への攻撃。だが、彼はもとよりそんな命令よりも戦いにおいて臨機応変なやり方を望んでいた。
《よし、グリューン各機、ここまで運んできた対艦ミサイルは全部打ち尽くせ。上にいる出来る奴を試してみたい》
《了解!》
そして、グリューン隊から、8本の槍が放たれた。

<<くそっ!右舷から対艦ミサイル接近!数、8!!>>
<<対空砲火、何やってる!?>>
<<撃て!撃て!撃ちまくれ!>>
接近するミサイルに対して艦隊から猛烈な対空射撃が加えられ、4発を撃墜したが、残りの4発はケストレルの前方を航行する駆逐艦と巡洋艦に2発ずつ突き刺さった。船体の中央部に直撃を食らった駆逐艦が炎に包まれ、艦首から吹き飛ばされた巡洋艦が運河の岸に乗り上げる。
<<第2弾薬庫に引火!このままでは艦が持ちません!>>
<<テンペスト、艦首に直撃弾!第一砲塔、損傷!航行不能!>>
<<僚艦が沈んでいく!航空部隊は何をしている!?>>
やってるよ!
舌打ちしつつ、ラリーは近づいてきたミサイルから機体をかわす。敵はかなりの手慣れだ。長距離で対艦ミサイルを放った後、そのままこちらに向かって対空ミサイルを撃ち込んできた。その隙に、敵の第3派の攻撃隊が防空網を振り切って艦隊に突撃して行った。放たれたミサイルと、接近した敵機から落とされる爆弾を回避する為に艦隊の進行は止められることになってしまった。
<<艦隊はまだ運河の半分までしか来ていない。ここで沈められてしまうのはまずい。各機、艦隊を守れ!>>
<<あの花火の中に突っ込めってのか!?正気じゃないぜ!>>
艦隊からは、もはや組織的な対空砲火が行われていない。ただ、でたらめに近づく敵に向かって発砲しているだけだ。たく、何でこんなときに空母を出してきて、例の新鋭艦が出さないんだ。85年ごろに就役した、新型の兵装システムを搭載した新鋭艦をオーシアは装備しているにもかかわらず、今回は空母を出してきた。おまけに、目的が試験航行?現場を知らないとしか思えないそのやり方に、腹が立ってきた。
<<なんとしても敵機を本艦に近づけるな!この船はオーシアの最新鋭空母だぞ!>>
<<かまわんから攻撃しろ!こちらが沈められたら元も子もないぞ!>>
そんなことで気を取られている暇はない。目の前に迫った敵機からガンアタックを受けた。機体を捻って回避した時に、迷彩柄に塗装された敵機が目に入った。
「ホーネット、か。けつの一刺しには気をつけないとな」
後ろに回りこんだ敵機を追いかける為に旋回。こちらが向き合うと向こうも正面を向き、互いにガンを撃ち合う。命中した弾はなかったが、被弾した弾もない。
《グリューン各機、射出装置はグリーンにしておけ》
今度は正面から戦いを挑まず、少し離れていく敵機が見える。そのとき、別の敵機が漆黒のA-10に近づいているのが見えてきた。
「ダルモエード、後方に敵機!注意しろ!」
そう言いながらも敵機の後ろを取るために機体を加速させる。旋回して回避したA-10の後ろを、いまだ取り続けている敵機から機銃が発射される。命中弾はなかったようだ。ダルモエードはそのまま回避を続けるが、A-10とホーネットでは加速に違いがありすぎる。おまけに、後ろの奴はかなりの腕前だ。ラリーは、残していたミサイルを使う決心をした。
兵装選択、近距離ミサイル。シーカーが作動し、程なく敵機のマーカーと重なった。
「ガルム2、FOX2!」
機体から放たれたミサイルが、回避運動に移った敵機に迫る。命中するかと思ったミサイルは、あさっての方向へとそれてしまった。敵機がフレアを放出し、ミサイルのロックをかわしたのだ。クソッ、やはりかなり手馴れている。このまま、複数の味方機が混戦状態になっていたら、艦隊を守るのも難しい。
(ここは、やるしかないか)
そう考え、無線を開こうとしたときに先に声が響いた。
<<味方機へ、ここはガルム隊で抑えます。あなたたちは艦隊の防衛へ向かってください>>

先ほどから、敵機に追われている味方の援護や、敵機が味方機の近くを飛んでいるために攻撃が出来ないなどの事態が頻発しており、このままではあのエース部隊らしき連中には勝てないと思って、味方機を艦隊の防空に回すことにしたのだ。
<<おいおい、このままあんたたちだけに任せたら、オーシア空軍の名が泣くぜ。俺は残るぜ>>
<<そうだぜ、サイファー。こういう手馴れは、大勢で相手したほうがいいんじゃないか?>>
<<わたくしは退きませんです。おとりでも何でも、お手伝いいたしますでございますです>>
当然反発があることは考えていた。だから、それに対する返答も考えていた。
「ああいうタイプの敵には、少数精鋭で挑んでいったほうが良い。数で挑んでいっても、連携を乱されてやられるだけ」
<<その通りだ>>
無線から誰かの声が聞こえてくる。レーダーを見ると、ウスティオ南部から来た増援の姿が見える。
<<こちら、第8航空師団第42飛行隊マクベス隊だ。遅くなってしまったが、援護に来たぜ>>
<<隊長の言うとおりです。ここは、ガルム隊に任せたほうが良いです>>
若い女性の声が聞こえてきた。それでも残ろうとする人たちがいたけれど、もはや構うことなく距離を取って再び体勢を整えた敵編隊へと向かう。後ろにはガルム2の機体。
<<奴らは気に食わないって感じだが、これであいつらに対抗しやすくなったな>>
自分の残弾数を確認しながら尋ねる。
「残弾は?」
<<近距離ミサイルが2発、機銃が半分より少ないぐらいだ。まだいけるぜ>>
私のほうは、中距離ミサイルが1発残ってる。近距離も2発。機銃は、それほど残っていない。これで4機を相手にする、か。何とかするしかない。
再び敵正面。中距離ミサイルが通用するような相手ではない。むしろ、ここで牽制用に撃つべき。兵装システムから、中距離ミサイルを選択し、ロックオン。FOX3。白煙を描きながら敵に向かってミサイルが疾走する。やはりミサイルアラートが鳴り、敵機からもミサイルが発射される。大きく円を描くように機体をロールさせ、ミサイルの機動を少しずつ、ずらしていく。警告音が、ミサイルが接近している事を告げる。次の瞬間に、機体を一気に引き上げて、ミサイルのすぐ真上を通り抜ける。すぐに反転、機首を敵機に向ける。正面に、敵機。地面と空がさかさまの状態で機銃を発射。敵編隊の真ん中を通り抜ける。命中しなかったようだ。敵は、二手に分かれてこちらを追尾してくる。
《奴ら正気か?2機だけでこちらに挑んできたぞ》
《俺たちと戦って、生き延びるつもりか?》
後ろから追尾してくる敵機の無線が混信しているようだ。機体を旋回させ、敵に後ろを見せない。2機のうち1機が近距離まで近づいてきた。攻撃を受ける前に機体を急降下させ、地面へと向ける。敵機は、その後ろを付いてくる。地面ぎりぎりで機首を上げて、そのまま上昇へ。もう1機のほうを狙う。少し上空に待機していた敵機が、待っていたとばかりにこちらを向く。正面の敵機を、いつもより早めに機銃で攻撃。前回のエース部隊のときのように、致命傷を当てられず、僅かに被弾した敵機が回避していった。
《ちっ、被弾したか》
《手加減無用だぞ、でなければ奴らに噛み付かれるぞ》
だが、その通り過ぎた向こうにガルム2を追尾している敵機の後ろが見えてきた。照準に入った敵機にガンアタック。真後ろから撃ちぬかれた敵機から炎が噴き出す。そのまま、ガルム2の後ろのもう1機に向かっていくが、こちらは回避されてしまった。
《ウスティオの傭兵め!》
《型にはまらない飛び方をするな。面白いパイロットだ》
おそらく、敵のリーダーだろう男の声が聞こえてくるが、その声はまるでこの状況を楽しんでいるようだ。後ろから接近してくる2機の攻撃を回避する。そのうちの1機はやはりこちらを追尾してくる。今度は上昇して、高度をとる。追尾してくる敵機をすぐ真上で、ヴァーティカル・リバースし、正面に機銃を撃ち込む。だが、敵機はそれすらも回避していく。
《やはりオーシアの坊ちゃん連中とは飛び方が違う。ここまで楽しませてくれるとはな》
同じように失速を利用した機動でこちらの後ろに向かってくる敵機を振り返って確認する。どうやら、ガルム2のほうで火球が出現できたようだ。敵の反応が一つ消えた。
《また1機撃墜されたのか!?》
《こざかしい、グリューン2!お遊びもここまでだ!》
後ろの敵機が更に近づいてガンアタックを仕掛けてくる。どうやら、こちらが隊長機らしい。バレルロールで回避しながら、ガルム2のほうを気にする。ガルム2が、敵機の後ろを取りつつ、牽制している。しかし、オーバーシュートを狙った敵機の下へと回避した隙を付かれ、後ろを取られてしまった。援護しに行こうと思っても、こちらは後ろから近づく隊長機に牽制されて手が出せない。しばらく回避機動をとっていたガルム2と、それを追う敵機だったが、唐突にその追跡が終わった。敵機が翼を撃ちぬかれ、主翼の折りたたみ機構の部分が吹き飛ばされたのだ。その直後に、上空から降下してきたF-4にとどもめを刺された敵機が墜ちていく。その機体の記章を見て驚いた。日の丸なのだ。ノースポイントの自衛軍。この戦争に参加したとは聞いていないが……。
《ばかな!?日の丸のファントムだと!?》
《ガルテンブルグに来たやつか。いい腕をしているみたいだな》
日の丸のファントムが、南部の戦線で活躍しているという話は聞いたが、これほどとは。正確に敵機の翼だけを撃ち抜いたファントムが、ガルム2の近くを飛んでいる。
<<こちらデスサイズ、円卓から帰還したという2機はあなたたちですか?>>
ファントムのパイロットから無線が入った。
<<ああ、そうだが…>>
<<でしたら、もっと早く敵を撃退できるはずです。何をしているのですか?さっきだって、下に回避するのではなく上に逃げるべきです!>>
フォルクが答えると同時に、若いパイロットからきつい一言。しかし、事実なのであるからフォルクは反論はしない。私は、それよりも後ろに張り付いている隊長機を落とすことに専念した。機体を捻り、あえて後ろをさらす。食いついてきた敵機から、ガンアタックを受けるが、被弾はなし。そのまま、エアブレーキを使って急制動をかけ、敵機と並行、シザーズへ突入してしまう。こちらがハイGを掛けて旋回するので、敵も同じようにハイG旋回を行う。機体は同じ、こうなれば根比べだ。
1回目、攻撃できず。2回目、一瞬視界に入るが、攻撃できない。3回目、今度は敵機の後ろ側が見える。4回目、近づく敵機を視界の上に捉え、タイミングを見計らって機銃発射。命中弾はあったようで、敵はこちらを追わずに低空へと降りていった。その後ろを追うが、敵機は先程こちらがやったように、誘うかのような甘い動きをしている。その誘いには乗らずに、ミサイルを放つ。敵機、フレアを放出して回避機動。その後ろを追いながら、進行方向からフレアが消える瞬間を待って、最後のミサイルを放つ。敵機、更に回避しようとするが、近距離で炸裂したミサイルに炎を吹いた。パイロットが脱出すると、すぐに機体が爆散する。パラシュートの白い花が、空中を舞う。
<<こちらケストレルCIC、当該空域の敵性反応が減衰している。運河通過まではあと一息だ!>>
<<怯まずに進め!空の戦士たちの善戦を無駄にするつもりか!?>>
艦隊の上空へ私たちが戻る頃には、ベルカ側の組織的な攻撃は下火になっていた。私たちは、その上空へと味方の歓声に迎えられて戻る。
<<すごいぜ!たった2機でエース部隊を撃退するなんて!>>
<<一体なんでそんなに強いのか、聞いてみたいな、クリス?>>
<<凄いです!凄いです!凄すぎるでございますですぅ!>>
<<いちよう、うちの日の丸の死神も援護していたんだけどね……>>
<<いいじゃないっすか、あいつらはウスティオ空軍の華なんすから>>
やがて艦隊は、運河の出口の破壊された橋にたどり着く。その向こうでは、ラウンドハンマー作戦によって破壊されたベルカ軍の地上部隊が上げる黒煙が見える。そして、生き残りのベルカの戦闘機たちも撤退していった。
<<終わったか?>>
誰かが呟いた。その直後に、無線連絡が入った。
<<こちらケストレル艦長ウィーカーだ。我が艦隊は運河の通過に成功した>>
すぐに無線を歓声が包む。もはや、艦長の言葉など聞いていない。ようやく行われた反抗作戦。その成功は、誰にとっても嬉しいことだった。ダルモエードのはしゃいでいる声、ナイトアローの面々の声、傭兵部隊の、シンキチ、フェンリル、トラヴィス、そしてフォルク。みなが久々の勝利を祝っていた。
そこへ、さっき増援にやってきたマクベス隊の1機がこちらに近づいてきた。何?
<<すみません、ヴァレーの皆さんにお尋ねしたいことがありまして…>>
この声…。私は、この声を知っている……。

「なんっすか?尋ねたいことって?」
トールは自分たち傭兵に尋ねてきた、おそらく20ぐらいの女性パイロットの質問に普通に答えた。何を聞きたいのかは知らないが、女性の質問には素直に答えたほうがいい。そうしたほうが、後々怖い思いをしなくてすむからだ。だが、今回の質問は、聞いておかなければ良かったほうなのかもしれない。
<<皆さんの中に、第1航空師団所属だった方はいませんか?私の父と姉が第1にいたんです>>
第1航空師団。それは、主にウスティオ北部の防空を任務とする師団であり、開戦直後に大損害を被り、師団ごと壊滅してしまった航空団だ。そこにいた、肉親の事を心配しているのだろう。無線から聞こえた声は、心苦しそうであった。
「君の、名前は?」
<<セリーヌ・クレメンス・スタークです。姉は、エレナ。父は、ロバートです。>>
聞いたことのない名前だ。そもそも、俺たち傭兵は本名を名乗る必要は無い。だから、TACネームで通してしまう奴も多い。その良い例が、例のサイファーだ。そういえば、元正規兵だったかな。
説明会での事を思い出しながら、知らないことを伝える。
<<そんな…………だってヴァレーにはサイファーがいるって……私の父の名なんですよ!?>>
…って事は、この人の父親が、ウスティオのサイファーと呼ばれていたわけで、この女性は娘というわけか。ならば、俺たちは彼女の父親は戦死している事を伝える必要があるのか………なんとも損な役回りだ。他の傭兵たちも黙り込んでしまった。だが、伝えないわけにはいかないし、彼女も黙って待っている。しばらく考えた後決心し、口を開こうとしたときにピクシーが先に答えてしまった。
<<悪いが、うちのサイファーは別人だ。そして、あんたの父親はもう、戦死している>>
しばらく辺りが静かになった。一瞬、何でピクシーが、とも思ったが、名実ともにサイファーの相棒であるあいつが教えたほうがいいのかとも思い、何も言わなかった。やがて、ふただび無線から切ない声が流れる。
<<……ウソよ………父さんが死んだなんて……そんなのウソよ…>>
辛い、役回りだ。本来、伝えるべき人が違うのだろうが、それでも迷いなく言い放ったピクシーの気持ちはどこにあるのだろうか?
<<本当だ。俺たちが、サイファーを紹介されたときに、あんたの父親の戦死を知らされた>>
無線機からすすり泣く声が聞こえる。俺たちも、押し黙って待っている。少したってから、話を続けたが、それでも彼女は涙声だった。
<<それで、サイファーは誰なんです?>>
<<その蒼いホーネットだ>>
しばらく経って、彼女から質問されると、今度はシンキチが答えた。セリーヌのF-14がサイファーの機体に近づく。サイファーと、キャノピー越しに、向かい合っている。
<<父を、知っていたのですか?>>
<<…立派だった>>
単純だが、明快な答え。それを言い終わると、サイファーの機体は翼をめぐらせて帰投ルートへと進路をとった。後に残ったセリーヌさんは、しばらくすすり泣いていたが、マクベス隊と、同じ基地から来たらしいあの、日の丸ファントムに任せて俺たちも機投する。
<<セリーヌ曹長、残念だったけど、お姉さんまで失ったと決まったわけじゃないでしょ>>
<<そうだ。それに、落ち込んだところで、親父さんは帰ってこない>>
セリーヌさんは、まだ泣いていた。無線から聞こえてくる、戦争の悲しい一面。俺も、戦争で家族を失った。場違いかもしれないが、俺はあの娘が笑っていけるようになったら、と考えていた。そして、それはきっと出来るはずだと。俺にだって、出来たんだから…


[ヴァレー空軍基地搭乗員室 4月24日 15時12分]
"Valais Air Base Crew Room" 1512hrs. 24 Apr


今、搭乗員室は、とあることで人だかりが出来ている。その数は、部屋の中に入りきらずに廊下にまであふれるほどだ。その原因、サイファーは、部屋に置かれているベンチの一つで横になっている。本来ならば、彼女は部屋に戻ってから休むべきなのだろうが、どうやら疲れて一休みしているうちにそのまま横になってしまったようだ。だからと言って、傭兵の誰かが悪戯をしたりするわけではない。なぜなら、サイファーの前には、ラリー、シンキチ、ジョン、そして、話を聞いてやってきたPXの姉御までもが鎮座しているからだ。全員が、サイファーの前を囲うように陣取っている為、ランディでさえ撮影を遠慮してしまうほどだ。エイダさんは、サイファーのそばに座って寝顔を眺めているし、周りにいる男3人は、何気無いふりをしながら周りの傭兵連中に目を光らせている。そんなわけで、誰も手が出せない。しばらくこの騒動は基地を騒がせていたが、結局残ったのはサイファーの周りの4人と、ランディ、そしてアルだけになった。
(結局、一枚も撮ってないな…)
ため息を吐きつつ、ランディがコーヒーのカップを口に運ぶ。隣では、コーヒーの二杯目を取っているアルが苦笑している。
「まさか、こんなところで寝てしまうなんてね…」
「あたしだって、最初聞いたときは耳を疑ったよ。来たときは、何かよからぬこと考えてる奴らもいたみたいだし」
アルの言葉に、エイダさんが返した。お互いに、サイファーを起こさないように小声だ。そのまま、何も話が出ないまま時間が過ぎるかのように思えた。聞こえるのは、コーヒーメーカーのヒーターの奏でる低い音だけ。
「今回は、なんだか気を張っていたみたいだった。その疲れが出たのかもな」
シンキチさんが、静かに呟くように話した。みんなで、ゆっくりとうなずく。
「そうだな…しかし、帰りのときのほうが緊張していたように見えたが…」
「…っん…」
サイファーが唸った。起こしてしまったかと、一時的に静かになったが、どうやら寝返りをうっただけのようだ。ほっと一息。すぐにまた小声で話し始める。
「やっぱり、あのサイファーの娘かな?」
「たぶんな。ひょっとしたら、あの娘の姉とも知り合いだったのかも知れん」
ジョンさんと、シンキチさんに何があったのか聞いてみると、本物のサイファーの娘に会ってきたのだといわれた。それで、彼女が緊張していたのだろうか。サイファーという、名前の重さ。でも、彼女が何を考えてサイファーを名乗ったのか、それを知る人は一人としていないことに気がついた。知っていそうなオズワルド大佐は、自分で聞いてこいと言ってきたし。
スゥ――、スゥ――
ともかく、今は彼女の穏やかな寝顔を邪魔されないように、5人は静かに見守るのだった。


コッペリアの眠り。見守るは、5人の守り人。

Phase2へ

Indexへ
 
 

inserted by FC2 system