[1995年 5月13日 17時30分]
"1730hrs. 13, May 1995"

ウスティオ首都ディレクタスに駐屯していたベルカ東部方面軍司令部は、
満を持して進撃を開始したオーシア陸軍第101空挺師団、ウスティオ陸軍第17機械化歩兵師団、
及び、支援の為に投入された空軍第6航空師団による総攻撃の初期の段階で指揮系統が麻痺し、
市内各所に配備されていた部隊が孤立。また、作戦開始と時を同じく、市内において発生した、
レジスタンスの一斉蜂起によって、ベルカウスティオ方面進攻軍は、
ディレクタス市内から完全に一掃された。
なお、この戦いにおいて指揮系統を離れたベルカ軍の一部による、
市民への虐殺行為が行われており、戦後、戦犯として45名が実刑を受けた。

[1995年 5月14日 14時00分]
"1400hrs. 14, May 1995"

オーシア連邦ノースオーシア州ラザフォードにおいて、オーシア陸軍第1空挺旅団が、
ベルカ第11軍隷下、陸軍第57機甲師団の防御網を破り、
ベルカ第4補給大隊の物資集積所3ヵ所を強襲、15時間もの戦闘によって、これを破壊、脱出。
ノースオーシア南部に進軍するベルカ軍の補給路を絶つ。
これにより、ベルカ軍はノースオーシア州南部に展開する第4軍に対して、後退命令を出した。

[1995年 5月15日 7時55分]
"0755hrs. 15, May 1995"

ノースオーシア州ヒューバード湖畔グリービルに駐屯するベルカ陸軍第102歩兵師団に対し、
オーシア第7軍隷下、陸軍第5機甲旅団が、攻撃を開始。
戦闘は正午まで続いたが、グリーンビル市、及び港湾施設を制圧。
五大湖に進駐している、ベルカ海上戦力の孤立化に成功。
時を同じく、フトゥーロを抜け、ヒューバード湖に到達したオーシア国防海軍第3艦隊が、
沿岸に展開していたベルカ海軍第5艦隊と、付随する輸送船団を撃破。
海路での、ベルカ軍輸送路を絶つ。
ベルカ側の損害、
巡洋艦ヘルゴラント、オストフリースラント撃沈、チューリンゲン大破(後に廃棄処分)、
駆逐艦リュッチェンス、メルダース、ロンメル、ザクセン撃沈、
エムデン、カールスルーエ中破、リューベック小破、
輸送船9、その他4、兵員約4500名、物資350万t。

[1995年 5月15日 13時00時]
"1300hrs. 15, May 1995"

オーシア第4軍隷下、第1航空師団、第23機械化歩兵師団が、
ウェッソン防衛の任についていた、ベルカ空軍第3航空師団、第114歩兵連隊を撃退、
ウェッソン市、及び空軍基地を奪還する。
翌日から、奪還した空軍基地より第702飛行隊によるベルカ補給路への徹底した攻撃が開始され、
オーシア内部に進攻したベルカ軍の撃退は、決定的になる。

[1995年 5月15日 16時30分]
"1630hrs. 15, May 1995"

ベルカ、サピン間の国境地帯、ベルカ陸軍第77旅団及び、
第28航空師団によって防御されていた、ヴァルト要塞に対して、
オーシア第3軍隷下、陸軍第401機械化歩兵連隊、第706砲兵連隊、第232機甲旅団、
及び、サピン陸軍第7機甲師団、空軍第9航空陸戦旅団、第11航空陸戦旅団が、攻略を開始。
戦力の30%を失う損害を出すも、要塞の攻略には成功し、
ハードリアンライン、南側一部を切り崩すことに成功。
しかし、同時期に行われたオーシア第9軍主力によるハードリアンライン北部への攻撃は、
損耗率60%以上という大損害によって、頓挫した。

[1995年 5月16日 7時00分]
"0700hrs. 16, May 1995"

ハードリアンライン攻略第2陣、オーシア海兵第1・第2師団とユーク海兵第1師団が、
メンフィス湖東岸ベルカ領に対する強襲上陸作戦”ウラノス”を実施。
動員艦艇150隻近く、航空機200機近くの支援によって、多数の犠牲を払いつつも
海兵隊が3つのビーチを制圧。その後、連合軍はこの橋頭堡を基点とした進撃を開始。
これを受けて1900時、ハイエルラークを後退点とするベルカ軍に対し、
オーシア国防空軍第2航空師団、第17航空師団、
陸軍第3機甲師団、第1013歩兵旅団が進撃を開始。
開戦から2日で攻略された、ハイエルラーク空軍基地、ならびに市街地を奪還。

[1995年 5月17日 4時35分]
"0435hrs. 17, May 1995"

オーシア国防空軍第27航空師団、第4航空師団、及び陸軍第7師団による、
グラティサント攻略作戦『WALL WASHER』開始。
南部と西部からの方面航空作戦により、グラティサントの対空砲火をひきつける間に、
イヴレア山に位置する要塞の内部に特殊部隊を潜入させ、指揮系統を混乱させる。
各戦闘地区の連携を失わせ、内部と外部両面からの連携によりグラティサントを攻略する為、
オーシア東部の航空基地から翼が飛び立つ。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・




<<ナイトパンサー各機、目標空域への侵入開始。1分後から、目標への攻撃開始まで無線封鎖。目標の破壊確認後、ワイルド・ウィーゼル隊、及びガンシップでの特殊部隊潜入地点の制圧を行う。各隊、戦闘体勢で待機せよ>>
AWACSからの作戦前の報告の後、隊長の返事を聞いた私たちは、無線のスウィッチを切るまでの1分ほどの時間を与えられた。
<<無線を切っちまったら、独り言しかできん。全員、今のうちに言っておきたいことは言っておけ>>
隊長なりの心遣いなのだろうが、全員これから行われる危険度の高い作戦への緊張の為に、気楽に話したりするほどの余裕はなかった。
<<なんだ?誰も喋らんのか?>>
隊長の問いかけに対して、声を出そうとしても上手く声にならない。まだ朝日も上がらず、夜の帳が下りたままの空に、F-117の先鋭的なシルエットが飛行機とは思えないほど静かに、それでもかなりの音を立てながら飛び去っていく。オーシア国防空軍第405戦術飛行隊ナイトパンサー隊所属のナイトホーク9機が、V字隊形を保ち一路グラティサントを目指して飛びつつける。彼らの目標は、グラティサントにおいても最も南側に位置するA地区、通称『エリアゲート』。山頂に築かれている古城内部に設置された対空指揮所を中心に、対空兵器で山を埋めるように配置した、ハリネズミのような場所。そんなところに出向かされると聞いたときには、正直生きた心地はしなかったが、隊長の激と励ましの交じり合った一言で少しはましにはなった。だが、恐怖がなくなったわけではない。
下を見ると、灯火管制の敷かれていないのか、ぽつぽつと明かりを灯した町の姿が薄い雲の切れ目から見える。出撃前のブリーフィングで飛行ルートの一つになっていた、なんとも読みづらい名前の町。ここを越えれば、もうグラティサントは目の前だ。自然と、緊張で体と思考が硬くなる。
<<誰も喋らんのなら、俺が勝手に喋るからな>>
そう言って、咳払いを一つしてから話し始めたマッキンリー隊長。その話す前の咳払いが、隊長が緊張していることの証拠であることは知っているし、部隊のメンバーも知ってはいるのだが、あえて突っ込んだりはしない。それが、仲間の間での礼儀だった。
<<これから俺たちが赴くのは、空を飛ぶ者にとっては最悪とも言える要塞、グラティサントだ。俺たちの何人かが、生きては帰ってこれんかも知れん。だが、死ぬ事を恐れるな。恐怖は翼を鈍らせ、自分以外の人間にも死神を呼び寄せちまう>>
隊長の言葉を、静かに聞く私、ジュリアンナ・スペンサー。ナイトパンサー隊2番機であり、精密爆撃に関しては、抜きん出た腕前を持っている。その腕を買われ、奇襲攻撃に特化したナイトパンサー隊に配属されて2ヶ月、いまや隊内でもその実力を認められつつある。
<<だから、お前達は戦って生き残ることだけを考えろ。勝つことは、俺に任せておけ>>
隊長の言葉に、どこからか安堵の思いを持ちつつ、いつもと変わらない隊長に苦笑する。地上に降りた時は、どうしようもないほどだらしのない隊長だが、空に上がったときはいつも列機の事しか考えていない。そのために、いつだって辛い思いをするのは、隊長なのに・・・。
「ナイトパンサー2より1、無理はしないで下さいよ」
心配を掛けさせないでくれという意味も込めていった言葉に、うちの隊のムードメイカーのベルツが相槌を打つ。
<<それは全員に言えることだぜ。隊長、俺たちがそう簡単に落ちたりするとでも?>>
<<特にお前がな、ベルツ中尉!この間、低空飛行でクラッシュしかけたのはどいつだ!?>>
ようやく、隊のいつもの雰囲気に戻った。お調子者のベルツが隊長に叱られたり・・・
<<ところで、ジュリーは隊長とどこまでいってんだ?>>
また来た……。いい加減にしてよ…。ベルツときたら、いつも私と隊長をこの話題でからかってるんだから、こっちはいい迷惑よ。
<<そういや、まだ返事を聞いてなかったな?>>
おまけに、隊長もこの話題を振られると何だか楽しんでいるみたいで、もういや。
<<こちらスカイホーム、そろそろ無線封鎖の時間だ。子供はベッドで独り言でも言ってろ>>
AWACSのぴしゃりとした口調に合わせて、私は無線機のスウィッチを切る。それまで聞こえていたベルツの無駄口が聞こえなくなると、ヘルメットに装備されたNVG(Night Vission Goggle:暗視ゴーグル)の電源を入れ、計器を夜間の微赤外線モードにする。いままで、自分の手元しか見えなかった視界がゴーグルの赤外線増幅・可視化装置によって緑色の視界を映し出す。私から見て右前方に、1番機の姿が見える。私たちのナイトホークは、夜の闇にまぎれてグラティサントを目指す。

[イヴレア山 作戦担当空域A 4時35分]
"Mt . Ivrea, Operation Air Space Alfa"017°29'13"N 231°57'02"E 0435hrs. 17, May 1995


いくらナイトホークがステルス性に優れた機体であっても、レーダー探知を避けるために低空を飛行するのは基本だ。低空を高速で飛行することは元々危険な行為である上に、今回の作戦の重要性を鑑みて、無線は攻撃開始前の最終決断のときまで使用が禁止されている。当然、AWACSからの地図転送などの電子支援も受けられず、機体には元々装備されていないレーダーの為に、自分の位置確認すら、暗闇の中では難しい。そんな中、私たちは数十分の夜間飛行を終え、予定された時間に目標地点へとたどり着いた。
<<ナイトパンサー1より各機、迷子になったやつなんか居ないだろうな?>>
低空を高速で飛行していた緊張からか、隊長の声を聞こえたことで若干緊張の糸が解ける。だが、その僅かな時間も空中管制機からの指示で一気に緊張が高まる。
<<スカイホームより、攻撃各隊。作戦開始時刻に変更なし。ナイトパンサー隊、交戦を許可する。目標は、イヴレア山頂上の、敵対空陣地>>
<<了解、ナイトパンサー隊、ロックンロール!>>
翼を翻し、自らの操る機体を攻撃目標上空へ上昇させる隊長機。私は、その後ろをしっかりと付いていく。まだ敵は、私たちが近づいているのに気づいていない。このままなら、作戦は成功するかもしれない。だが、油断は禁物だ。周囲への警戒を怠らないように、夜の闇に溶け込むような色の機体を操り続ける。

[エリアゲート 4時40分]
"Area Gate" 0440hrs. 17, May 1995


「更新する設備の設置は完了したか?」
辺りを漆黒の闇が包む中、男の野太い声が響く。山間特有の吹き上げ風が吹く中、幾人の男達が作業にいそしんでいる。
「誘導レーザー発信装置は、設置まで時間がかかります。新型のほうは、調整が完了しました」
男達が立っているのは、イヴレア山にある対空陣地のうち、南東をカバーするエリアゲート、その古城の砲台陣地跡だった。かつて、山脈を越え侵略を繰り返したベルカ騎士団の後方陣としてのグラティサントは、いまやベルカ本土に侵攻を行おうとする連合軍を押し留める、守護者としての役割を発揮していた。ここ、エリアゲートを総括する、カール・ボウマン大佐も、この地の重要性は理解しているし、任務の重要性を重く受け止めていた。そして何より、彼の指揮する部下と共に戦える事を誇りに思っていた。今も、東の空がようやく明るみ始めたような時間まで働き続けてくれた部下を、ねぎらってやろうとまだ肌を突く寒さが残る外に出てきていた。
大佐が作業の監督をしている工兵隊の少尉の報告を聞き、外周部で設置作業を続けているほかの部下のもとへ赴こうとしたとき、朝焼けの空に動く黒い影が視界に入った。最初は鳥か何かだと思った大佐だったが、すぐさまその目は驚愕に見開かれる事になる。2つの影が同時に動いたとき、その影は鈍く光を反射し、一瞬だけその形を目に焼き付けた。多面的な、ほぼ三角形をした闇からの使者の姿。
「敵襲ーーーーっ!!!!」
瞬間的に叫びながら、近くにあった通信機で防空指揮所に連絡を取ろうとした大佐の視線の先、既に投下態勢に入っているのであろう敵機のはらの下に、白い空間が突如現れたように兵器倉のふたが開かれ、そこから黒い物体が切り離される。
「みんな伏せろーーーっ!!!」
もはや、どこに向かって叫んだのかはっきりせずに、手近に居た部下の一人にタックルをして地面に伏せ、もう一度警告を発しようとしたとき、凄まじい轟音と爆風が大佐達を襲った。肺の中から空気が押し出され、一瞬呼吸が詰まった後むさぼるように空気を求める。すぐまた、別の爆発が起こり城を揺るがす。地面にはいつくばって、衝撃が収まるのをじっと待つ。下で潰されている部下が苦しそうにうごめいたので、もう攻撃がない事を確認して若干自分の体との隙間を空けてやる。上空を見上げると、奇襲を成功させた敵機が、その独特な尖った機体を上昇から旋回に移すところだった。

<<ナイトパンサー3より1、第一波攻撃成功。敵はこちらの攻撃に気づいていませんでした!>>
無線から、仲間の興奮した声が聞こえてくる。私たちは、その声を上空から見下ろす形で聞く。今頃は、他の空域に対してもほぼ同時に攻撃が開始されているはずだ。だが、奇襲攻撃は一度にどれだけの敵勢力を減衰出来るかに係っている。それ以降は、敵も体制を整えてきて対空戦闘には圧倒的に不利な私たちが窮地に立たされる番になる。それまでが、勝負…。
今一度、自分の気を引き締める意味でも、自分のおかれている状況を確認する。今自分がいるのは、高度30000fts。ここから一気に目標である敵の対空陣地に向かって降下しつつ、定められた目標に対して攻撃を加えていく事になる。
「…ふうー……」
一度だけ目を瞑りながら深呼吸をして、はっと目を開く。
<<いくぞっ!>>
「はいっ!」
隊長のかけ声に合わせて、私は機体を180°ロールさせ、地面を上に見る形で一気に降下態勢を作る。降下角が60度になったところで、再びロール、正面に中世の頃に築かれた古城の跡、そしてその上に設置された対空陣地を確認する。対地高度計が15000を切った辺りから投弾態勢。兵器倉を開き、GBU-27が顔をのぞかせる。近くまで潜入した工作員がレーザー誘導を行う予定だが、2機で一つのペアとして、一機を誘導母機に、もう一機を攻撃にというバックアップの作戦もある。そのかわり、ステルス機本来の隠密性が著しく損なわれてしまう。味方からのレーザー照射開始をNVGの緑色の視界で確認したその時、下の城で光がほとばしる。直後、機体の周囲で対空砲火が爆ぜ、爆炎が空を黒く染め始める。その中を、降下していく私たちは、高度12000ftsで誘導爆弾を投下し、城を飛び越して山肌を滑るように降下していく。後方で、投下した爆弾によって城の上部に火焔が沸き起こり、城全体を揺るがしている。その中で、必死になって戦っている兵士達の事を考えると、胸が重い。しかし、ここでしっかりしなければ、部隊の仲間が危なくなる。このあと反復攻撃を行う隊長のほうは、更に危険性が高いのだ。既に閉じられている兵器倉は、既にレーダー対しての反射波は少なくなっている。この機体がステルスによる隠密性を保てなくなる瞬間、それは、攻撃の際の兵器倉の開放時だ。上昇した先に、霞んだ月が無慈悲な女神のように輝いていた。その威光は、どちらの為だろうか…

「対空砲は、接近する敵機だけを狙えっ!対空ミサイルは、レーダー誘導モードで立ち上げろっ!」
最初の攻撃から僅か数分で、部下達は衝撃から立ち直り、既に動ける全員が戦闘配置についていた。敵機の攻撃は、城の下部搬入口を狙ったもので、頑丈なシャッターに阻まれたそれは、城本体にはたいした被害をもたらしてはいない。ただ、城の入り口とその真上にあった対空砲に付いていた兵がやられ、敵機はステルス機の優位を最大限に利用して離脱して行った。
だが、ここからだ……。
ボウマン大佐は、城の中央部にある作戦指揮所の中央ある椅子に腕を組んで座りながら、正面の画面に映し出された陣地の状況を見る。各コンソールに座るオペレータたちは、闇にまぎれていった敵機を再補足しようと必死になっていた。敵はレーダーに映りにくいステルス機。だが、完全に消えたわけではない。離脱して、こちらの様子を静かに伺っているはずだ。もう1度攻撃に戻ってきたとき、そのときこそ、こちらは全力で迎え撃ってやる。ちょうど、最近配備されたばかりの最新兵器も稼動状態に移ったばかりだ。他の地区もほぼ同時に攻撃を受けたらしいが、まだ戦いは始まったばかりだ。
ボウマン大佐の顔に、歴戦の猛者らしい笑みが浮かぶ。その笑みは、何の為か。

一度離脱したナイトパンサー隊は、再び攻撃を行うべく次の目標指示を待っていた。いくら命中性能の高いレーザー誘導爆弾であっても、ただ投下しただけでは通常の爆弾と変わらない。精度の鍵は、いま山のどこかで私たちのために発見される危険を顧みず誘導を行っている工作員にかかっている。数分後にようやく、次の目標が指示され、私たちは再び2機のペアで連続攻撃を行う。今度は、私がマッキンリー隊長に先行して降下を開始する。これは、バックアップの位置とは逆ではあるが、投下態勢に入ったステルス機の前に別のステルス機を置くことで、敵のレーダーを混乱させようとする苦肉の策だ。下の敵陣地は、闇雲に機銃を打ち上げており、いまだこちらの位置を掴みきれていないようだ。この攻撃で私たちの担当空域はいちよう攻撃終了となる。不測の事態には、予備の爆弾を使う事になっているが、基本的にはこのあとこの空域を担当するのは、ワイルド・ウィーゼル隊や、ガンシップなどの制圧部隊だ。私は、この攻撃が最後になる事を祈りつつ、眼下の城に向かって降下を続ける。

「上空に、微弱なレーダーコンタクト確認!敵ステルス機と思われます!」
オペレーターが声を張り上げた瞬間、大佐はそれを上回る大音響の声を上げる。
「全対空砲、敵機の予想位置に照準!攻撃位置は、各担当空域のみに限定せよ!牙の準備は?」
上部の対空砲が、指示を受けて予め定められた方向に向かって放火の嵐を見威い、指揮所にまで凄まじい轟音が響く。更に、戦闘指揮とは別のコンソールに配置された部下の方向を向く。そこには、なにやら複雑な装置やら、計測器やらがほぼむき出しの状態で置かれており、まだ作られて新しい事を物語っている。
「既に、データインプットは完了しました!作動範囲は、高度15000ftsにセットしてあります!」
「よしっ!私の合図で発射する」
大佐はレーダー要員の肩から覗き見るようにレーダの丸い画面を見る。時々現れては消える、輝点をじっと見詰めていた大佐は、その点の位置が17000を越えた辺りで号令を発した。
「悪く思わんでくれ。『竜の牙』、発射!」
その直後、いままで聞こえていた対空砲火の轟音とはまた違った音が指揮所に響く。

<<くっそう!こんな攻撃を受けるなんて、聞いちゃいねーぞっ!>>
ベルツの悪態も、今回は部隊の全員の感想といえるだろう。私たちは、気がつけば敵の対空砲火の真っ只中にいた。ある程度の距離に近づいたからか、それともこちらの僅かなレーダー反射波を捉えたのか。ともかく、敵はこちらの位置を捕捉し、いま猛烈な対空砲火を浴びせてきている。その中を、何とか掻い潜ってはいるが、いつ当たるかもしれない。すぐに離脱しようとしたところへ、隊長の声が響く。
<<落ちつけっ!この対空砲火は単なる当てずっぽうだ!>>
そう言って、自らの操るF-117を対空砲火の薄い空域に動かし、さらに降下を続ける。私もその後ろから追随する形で続く。そこは、まるで対空砲火の中に出来たトンネルのような場所だった。周りを、まぶしい光を放つ加熱した対空砲弾が通り過ぎ、私たちの部隊を敵の牙城へといざなっているかのように思えた。
行けるかも知れない・・・・・・。
そう思った事を、私は死ぬほど後悔する事になる。
突如、城の輪郭にある4つの対空砲台から白煙が上がり、それが私たちのトンネルを完全に包み込む形で飛び上がってくる。
ミサイル!?
当然、回避機動を取ろうとするが、この濃密な対空砲火のトンネルを抜けることは難しい。敵陣地に近づけばその分密度の濃くなる対空砲火の網に、絡め取られた事にようやく気づいた私たち。なんとか回避しようと対空砲火を抜けようとして、一機、また一機と対空砲火の餌食なっていく。断末魔の叫びと共に、パイロットの命を乗せたまま砕け散っていく夜鷹。
<<死にたくなかったら、付いて来い!>>
私たちの先頭を行く隊長機が加速しつつ、いままで通っていたトンネルを更に下へと潜り抜けていく。最後の希望に縋りつくように、生き残ったナイトパンサーの各機が続く。下から打ち上げられる対空砲火、更には、ミサイルまで接近している状態で、やはり隊長の声は私たちの心に希望の光をもたらしてくれる。私たちは、1本の矢のようになって敵対空陣地に肉薄する。
<<爆装を全て投下しろっ!機体を出来るだけ軽くするんだ!>>
隊長の指示に、予備の爆装をすべて投下態勢にする。正面で兵器倉を開いた隊長が爆弾をリリースするのと、接近してきたミサイルと思しき物体が私たちの周りを通り過ぎるのと、どちらが早かったのだろうか?私は、その後に訪れた衝撃で記憶がはっきりしなかった。突然、隊長の周りを通り過ぎたミサイルのような流線型をした弾頭が炸裂し、眩い光を放ったのだ。直後に、私の機体の周りを衝撃が包むのを感じ、それが一瞬後後方に退いていくのを感じた。突然の出来事に、城の上空での引き起こしを忘れそうになり、慌てて操縦桿を引いて機体を水平状態へと移す。山頂よりも高度が落ちた機体を、何とか上昇させて、後ろを振り向く。
そこにあったのは、空から破片と思しき物が城の周りを雨のように落ちていく光景だった。それが、さっきまで生きていた仲間の乗る機体のなれの果てであると気づくのに、随分と時間がかかった。そして、私から見てちょうど右方向に向かって流れ星のように赤い炎の塊が飛び去っていく。その流れ星が、山に衝突するまでをじっと見つめていた私だったが、はっと気づいて無線機のスウィッチを入れる。
「隊長っ!隊長聞こえますか!?ベルツ!?応答してっ!!」
ところ構わず、部隊の全員の名前を叫ぶ私。今までに決して言ったことはない、隊長のファーストネームすら言った私は、かなり混乱していたのだろう。
「ジョン!ジョンッ!!お願いだから答えて!!!!!!」
沈黙した無線は、部隊の仲間からの応答がない事を否応もなく認めさせられる。その時になってAWACSの存在を思い出した私は、すぐさま無線機の周波数を合わせる。
「AWACS!ナイトパンサー隊の機影を確認できないのっ!!そちらで確認できる機体はないの!?」
ややあって、AWACSの管制官の雑音交じりの声が聞こえてきた。
<<…ザザッ…スカイホームよりナイトパンサーへ、最後の命令を下す・・・直ちに撤退し、当空域を離脱せよ…>>
「撤退!?」
再び私を衝撃が襲う。作戦中は、中隊内での通信用に無線の出力を抑えて使っていたが、一度として撤退を示唆するような内容は聞かなかった。いったい何が起きたのか?
<<急げ、もはやこの機も持たない。ベルカの連中は、俺たちには……ゾザッ>>
それっきり、AWACSから発信される電波も無くなり、無線は沈黙に包まれる。私は、暁色に染まりだした空を飛び続けている乗機を、操縦桿を握っているのかすら分からないままで操縦しながら、再び中隊無線の周波数に合わせる。
「……こちらナイトパンサー2、隊長、応答願います」
隊長からの返事は無かった。でも、私の呼びかける声だけは続けて発信される。
「隊長?ベルツ?フォード……、ヘンリー………、うっ…………」
何も聞こえない。もう、自分が何を見ているのかすら分からない。だけど、私は飛び続けた。
「ねえ?・・・誰か答えてよ・・・っ・・・お願いだから……っ…誰でも良いの…声を聞かせて……」
目から落ちる涙が、自分の視界を歪ませていることすら、気づけない。自分の後ろに、脅威が迫っていることすら分からない。
<<ブサルト4、敵機を捕捉。FOX2!>>

・・・

「誰か答えてよ………声を聞かせてよ………ひっく…何も聞こえないよ・・・・・・・・」

・・・・・・

 

オーシア軍のみで行われたグラティサント攻略作戦は、
ベルカ側の救援として来援したエース部隊と思われる部隊からの攻撃で、
AWACS撃墜を許し、制空戦闘のために後方待機していた部隊の連携が出来なくなり、
既に戦線に投入されていた各部隊が寸断。また、ベルカ側が配備していたと思われる新兵器により、
奇襲攻撃に参加した部隊が全滅する事態に陥ったため、AWACS管制官、
ドナルド・アンダーソン少佐の機転により攻撃部隊へ撤退命令が出されたことが、
損害を最小限に抑えたとも言われているが、オーシアの軍法会議では少佐の独断専行を非難し、
死後の二階級特進を取り消した。オーシア側の損害、
4個飛行隊全滅、航空機撃墜79機、戦死65名、行方不明者49名。
戦死者、ジョン・マッキンリー大尉、ロジャー・ベルツ中尉、ヘンリー・ゴルツ少尉・・・・・・・・・
行方不明者、ジェラルド・コロール中佐、ロナルド・フォード中尉・・・・・・・・・・・・・・ジュリアンナ・スペンサー少尉



・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

[ヴァレー空軍基地ブリーフィングルーム  5月17日 12時00分]
"Valais Air Base, Briefing Room" 1200hrs. 17, May 1995


「・・・・・・以上が、本作戦の概要だ。グラティサントは、イヴレア山頂付近に築かれた遺跡群に対空火器を備えた、強固な要塞だ。遺跡自体は、中世の頃に作られたもので、その耐久力はベルカ騎士団活躍の陰の立役者とも言われている。また、対空陣地は主に5つの地区によって分けられが、それぞれが綿密にリンクしており、並大抵の戦い方では、今朝のオーシア空軍と同じ目に遭うだろう。それを念頭に入れた上で、作戦に望んでくれ。今回の作戦では、長期戦を見越して後方での補給体制を整え始めている。補給などが必要になったと判断したら、戦線を離れ即座に帰還しろ。戦果よりも、損害を少なくする行動を取れ」
そう言って、昼食後のブリーフィングを打ち切ったオズワルド司令。その顔が、どこかいらだちに歪んでいるかのようだと思っても、あながち間違いではないだろう。顔が不愉快で歪んでいるのは、何も司令だけではない。
「へっ!自分の手勢連中がしくじったから、俺たち傭兵組に後始末をさせようって事かよ?」
いままで座っていた椅子から立ち上がり、納得いかないと全身で表現しているジョンの声が部屋に響く。おそらく、この場にいるほぼ全員が同じ事を考えているだろう。平たく言えば、今回の作戦がこちらに回ってきたのは、今までの俺達の戦果に幾ばくかの妬みと羨みを持っているどこかの将軍か政治家かが、わざわざうちに任務が回るように取り計らったから、失敗することも前提に入れて出撃して来いとか、あまりにも被害が多すぎるので取替えの聞く傭兵組を出撃させて、自分のところの被害を少なくしようと、そんなところか。
「その通りだ。」
対する司令も、どこか不機嫌そうである。無理もない話しだ。
この戦争において、ベルカの土地に最も進攻したがっているであろうオーシアにとって、ベルカ本国への侵攻作戦を開始するのにハードリアンラインは目の上の瘤のような存在だ。現に、攻略の為に空軍だけでも5個、陸軍も含めると12個師団をほぼ同じ戦域に投入しても、攻略できなかったということだ。そんなところに、連合国の一部戦力でしかない傭兵組ばかりを、わざわざ出撃させるとは・・・。そう、今回グラティサントを攻略するために動員されるのは、第6師団だけではない。南部の第8に、西部の第4、更には、サピン王国王室直属の傭兵部隊までもが動員される。連合国の中にある傭兵を持つ軍隊は、ほとんどが動員されているのだ。正規組も一部動員されるようだが、どうやったってつじつま合わせか、形だけにしかならないだろう。ましてや、この作戦自体が、オーシアが自国の損害の多さを盾に傭兵を抱えている空軍に迫った無理やりなものだ。捨て駒、使い捨て、正規の軍隊に比べれば、俺達傭兵の扱いのなんと酷いことか。
ふっとため息をつきつつ、椅子の背もたれに寄りかかるように座る姿勢を変える。咥えていたタバコの先端から、燃え尽きた灰が灰皿に落ちる。ここ数日、このテーブルに置かれているこのステンレス製灰皿にタバコを押し付けたのは、多分俺一人だろう。いつの間に出来てしまったのか、ガルム専用とでも言うべきのこの席の周りには、なぜかほかの傭兵達との間に一人分の席が空いているか、ジョンや姉御のような奴らが近づいて座っていて、そして、俺達の距離を示すように二人の間に一つの椅子があるだけだった。
(最初の頃だったら、この基地も人が少なくて、席も選り取りみどりだったんだがな・・・)
実際、相棒が俺との距離を取っていたこともあった。だが、それはいいわけだろう。結局のところ、俺自身が相棒との距離を近づけたがっていないからだ。自分の中では、近づく理由がないと思っているからだ。だが、今のままでいいのかと自分に問いかけているのも事実だ。相棒の事情を知った上で、そのまま放っておいていいのかと。
しかし、俺自身に出来ることなど殆どないではないか。こういったことは、自分から乗り越えていかなければならないのだ。
そう自分に言い聞かせている。もちろん、立ち直れなかった奴らも、少なからず見てきてはいるが、いままでそうやって自分を取り戻して言った奴を見てきたのだから、それを最良の方法と思ってきた。―…・・・と、言うのに。
「・・・・はぁ、・・・・」
結局、結論の出ない問いかけでしかない。それに、たとえ結論が出たところで、今の段階でどうこうするものでもない。とりあえず、目の前に差し出された問題と仕事を片付ける事にしよう。今日の1620時開始の作戦に準備をするのならば、今から急いでやれば何とかなるだろう。


[オペレーション"ヘル・バウンド"集結地点、ブラヴォー2ロメオ 5月17日 16時00分]
"Rendezvous, Operation'HELL BOUND' Bravo 2 Romeo" 1600hrs. 17, May 1995


集結地点に一番乗りしたのは、俺たち第6の連中だった。今回初参加のカズと、虚空の二人を先頭に、集結地点を中心とした円を描くように遅れてやってくる連中を迎える。
<<よう、ヴァレー組!まだ性懲りもなく戦ってるのか?>>
<<手前にいわれたかねぇよ!>>
<<違いない!わっはっはっはっは!>>
合流してくる連中も含め、傭兵達の相変わらずのテンションの高さは、さすがというべきか。
<<こりゃ、航空ショーなんか目じゃねぇ規模だぜ、隊長?>>
そう言って無線で声を掛ける小隊のフーバー。その言葉どおり、今回の作戦に参加する航空機の数は、もはや小国の空軍戦力を補えるかのような量だ。それにしても、良くこれだけ揃ったものだ。自分の乗るMig−29Aラースタチュカの操縦桿を握りながら、続々と集まり始める戦闘機、攻撃機の姿を眺める第101飛行隊『メナス』を率いるジョン・トラヴィス。今回の作戦は、ほとんど傭兵のみが行う作戦であるにもかかわらず、何故か付いてきたオセロー・フィッシュバーン率いるハウンド隊を右前方に見ながら、南部からやってきた第8の連中を見る。どこかで見たようなF−14で編成される部隊の先頭を行く機体が、接近してきている。
<<こちら、第8航空師団、第42飛行隊マクベスだ。ヴァレーの傭兵、元気そうで何よりだ>>
「そっちもな。そういや、あのお嬢さんの探し人は見つかったかい?」
<<残念ながら、まだだ・・・>>
ひょっとしたら景気のいい話題が聞けるかと思ったが、どうやら失敗したみたいだ。フトゥーロでは、サイファーの過去に関わる事を話していた、あのお嬢さん。親父さんが戦死していたことすら知らされておらず、いまだ行方不明の姉を探していた。答えを聞いてしまったと思ったが、仲間に気遣われているのか、それとも話す気すら起きないのか、セリーヌは無線の上では沈黙を保っている。
<<うちの司令を通して、今現在行方の分かっている空軍関係者全員を確認してもらったんだが、その中に名前はなかった・・・>>
それっきり、無線を沈黙が包む。家族の一員がいまだ行方不明。それに、親父さんまで死んでいる。話に聞くと、母親を早くに亡くしており、男手一つで育ててくれた父親だったそうだ。それに、姉を除けば、他に身寄りもない。こんな時に、よそ者の俺たちが声を掛けてやったとしても、慰めになるか分からない。しかし、ここは何か言ってやった方がいいだろう。これから行われる作戦で、士気が低いのは問題だし、女性が落ち込んだ姿を見ているのは気が持たない。そこで、声を掛けようとしたときだった。
<<・・・それでも・・・>>
「・・・え?」
酷く沈みきった声だった。だが、しっかりとした意思を感じられる声でもあった。それでいながら、どこか壊れやすいガラス細工がいくつも共鳴したように、声が響く。
<<それでも、希望を捨てさえしなければ、まだ望みはあるから・・・>>
―最後まで、希望を捨てない。その言葉を聞いて、俺は愕然とした気分になった。なんと言うことだ。今でも、彼女は信じているのだ。姉はまだ生きていると。俺はいま、彼女を慰めようとしていた。だが、彼女はまだ諦めてなどいない。それなのに慰めを掛けようとは、お門違いもいいところだ。自分のしようとした事を叱責して、謝ろうとしたのだが。
<<・・・希望を捨てるときは、死ぬときだけよ>>
サイファーの声のほうが早く届いた。
<<・・・!>>
驚いたように息を呑む音が聞こえる。周りの連中も、二人の関係に気を使って、いままでしていた雑談を中断している。作戦まであと僅かだというのに、珍しく傭兵達の間に沈黙が訪れる。
<<生きているのだから・・・・生きていさえすれば、希望はある。最後まで、諦めてはだめ・・・>>
<<そうです、ね………父の教え、ですよね?>>
<<・・・そう>>
それっきり、サイファーとセリーヌの間を沈黙が包む。ただ、今度は嫌な感じの沈黙ではなく、ごく自然なものだ。他の人間は、別に黙り込む必要も無いのだが静かに二人を見守る。
<<……あなたは、姉の行方を知りませんか?>>
ためらうように尋ねた、セリーヌ。サイファーはなかなか答えようとはしなかった。それを、黙って待つセリーヌ。サイファーは、何度も答えようとしているようだが、何かきっかけがないため答えられないのだろうか?いくばくか沈黙の時間が流れた後、静かに無線から声が流れる。
<<・・わたしは・・>>
<<こちらサピン王国空軍第22飛行隊アギラ隊だ。作戦開始時刻が近い、余計なお喋りをするな>>
おいおい、オイオイ・・・。一番悪いタイミングで、一番声を掛けなければ良かった奴らが声を掛けてきたぞ。
同じくフトゥーロで知り合った、どちらかと言えば、あんまりお付き合いをしたくない相手の少佐殿。前回は、ヴァンさんにちょっかいをかけてサイファーを筆頭とした俺たちに撃退されたが、今回は尚、性質が悪い。俺たちのエースにしてアイドル(俺視点)、ガルム1こと、サイファーに手を出したんだ。ただでは済まさねえぜ。
<<ほう…俺たちのエースの、いい話にけちを付けるとは、いい度胸だ・・・>>
虚空の台詞をゴングに、一気に無線が騒がしくなる。
<<全く、空を飛ぶ以前に気を使うことが出来んのか?少しは自重したほうがいいぞ>>
<<全く、嫌になるような邪魔の仕方っすね。一体どこのママに教えてもらったんすか?>>
<<もうちょっと、空を飛ぶことの意味を考えたほうがいいですよ?>>
<<……教育が足りない……>>
<<それ以前に、空を飛ぶこと自体が不思議だな>>
全部を書いていくと大変な事になるので、俺の言葉を含めて他は省略。これだけの罵詈雑言を浴びせられて、いつかみたいに怒鳴り散らしたりするのかと思ったのだが、意外にも少佐は余裕の声だった。
<<ふん、貴様らのその余裕が、作戦開始まで続けばいいがな>>
「あんだと?」
やけに余裕たっぷりに言い放った少佐の声に、若干ながら違和感を感じて尋ねてみる。こいつのことはあまり知らないが、なんだか前にあったときとは様子が違った。
<<これから我々が向かう先にあるのは、ただの要塞じゃない。遺跡要塞グラティサント。その守りは、航空師団1つ程度、簡単に打ち砕くほどのものだ。そんな中に投入される我々が、上手く生き残れるとでも思っているのか?>>
<<もちろん>>
即答したのは、意外にもサイファーだった。いや、最近は意外と言うほどでもなくなってきた。この基地で出会った頃に比べて、最近のサイファーはまだましな方になったといえるのだろうか。ともかく、何も返さないことは少なくなってきている。ほんの僅かな反応が、また俺の恋を燃え上がらせているが・・・。
<<なんだと?>>
<<私たちの仕事は、要塞攻略ではないわ。生き残ることよ。ほかの事は、付加的なものに過ぎない>>
全く、心底嫌味な連中にも、いい台詞を言ってくれる。マスクを片方だけつけたヘルメットのバイザーを下ろしながら、俺は無線に向かって呼びかける。
「こちらメナス1、了解だ。俺たちは、こんなめちゃくちゃなミッションだって、成功に終わらせて帰ってくる。そのために、戦ってるんだからな」
<<そろそろおしゃべりも終わりだ。ヘル・バウンド作戦開始時刻だ。全機、生き延びる事を考えろ!>>
AWACSの声を合図に、集結地点から各担当空域に向かって鋼鉄の翼が散っていく。俺たちも、サイファーとピクシーたちと一緒に受け持ちの空域に向かう。
幾たびも、ベルカ公国の戦いにおいてその堅牢な防御力を盾に勝利を導いてきた、グラティサント。その壁を、打ち砕く為に。





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