[エリアゲート 5月17日 16時20分]
"Area Gate" 1620hrs. 17, May 1995

「最近の兵器の性能というのは、凄まじいものがあるな……」
そう言って、今朝の空襲の際と同じ場所に立つ、カール・ボウマン大佐。大佐の立つ足元には、『竜の牙』によって破壊された敵機の破片が突き刺さっている。この破片が突き刺さる数秒前まで、それは高価な戦闘機であり、自分と同じような生きた人間が操る鋼の兵器だった。だが、こちらからの攻撃を受けた僅か数秒の間に、それはただの焦げ屑となって城に降り注いだ。破片を手にとって、手のひらで転がしながらしばし物思いに耽る。
(こんな兵器を次々と投入していっては、兵器の性能が人間の理性の許容を突破してしまう……)
実際、あの兵器を使用したあとには、そのあまりにも強力な破壊力を目の当たりにして何をすればいいのか判断できなくなった、というのが正直な話だった。圧倒的な威力に、興奮した部下の一部が雄叫びを上げたりもした反面、その衝撃的な光景を前に神経を軽く病んだものも居る。炸裂時の爆風は、使用者であるわれわれの側にも影響を及ぼし、レーダー関連の施設の再チェックが必要になってしまった。
その他、いろいろな観点から考慮した結果、大佐は『竜の牙』の使用は、原則として禁じた。威力のありすぎる兵器は、何も生みはしないと考え、説明を聞いた部下たちもその考えに従っている。実戦での使用データを集めた後は、開発した兵器廠側にデータもろとも残っている弾頭も返却するつもりだ。
(しかし、これほどの兵器を使用してまでして戦争を続けようとしている祖国と、その指導者は、一体何を考えているか・・・)
ただでさえ、この戦争の意義をともすれば見失いかけてしまうことが多くなった時期だ。それに、ベルカ公国政府閣僚近辺からの政治的、あるいは個人的な噂のみならず、最近では、自国軍内部ですら不穏な噂が絶えなくなってきてしまっている。筆頭にあげられるとすれば、公国軍内部に設置された親衛隊や、秘密警察の治安維持活動だろう。その治安維持という名目とは裏腹に、一体何をしているのか分かったものではない。治安維持活動を合法化した治安維持法自体、怪しいものだ。空軍にも、いつも黒い噂の絶えない部隊があるという。一体、わが国はどこへと向かっているのか……。
そんな感傷に浸っていたボウマン大佐だが、突如鳴り響いたサイレンの音に中断せざるを得なくなった。反射的に空を見上げてみるが、今朝のように敵機の姿は無い。ほっとすると共に携帯無線機のスウィッチを入れ、体に指揮所への最短ルートを走らせる。
「ボウマンだ!何が起きている?」
無線機の向こうからは、混乱している指揮所の音を背景に副官の緊張した声が届く。
《ち、中央指揮所から、緊急通信が入りました!敵編隊と思しき反応、多数を捕捉したとのことです》
「落ち着け。もう一度連合軍が襲ってきても、グラティサントは落ちたりはせん」
今朝の失敗に懲りずに、もう一度部隊を繰り出してきたらしい。いつもと違って、緊張した雰囲気の副官を落ち着かせようと、自分から落ち着いた声を出しながらも小走りで指揮所へ急ぐ事をやめない。だが、その次の副官の言葉に一時的に足を止めそうになった。
《これは楽観視出来る量ではありません!敵数は、およそ120!すべて、こちらの方向に向かっているそうです!》
「なんだとっ!?」
驚いて大声を上げてしまった大佐。あまり見ないボウマンの姿に近くで作業していた兵が驚いたようにボウマンを見るが、大佐はすぐに小走りだったペースをほぼ全力疾走に変えて、指揮所へと急ぐ。

指揮所に到着した大佐を迎えたのは、必死に敵の詳細を探ろうとするオペレーターたちの悲鳴にも似た声だった。
「レーダーサイト、6番から8番の反応消失っ!第1防衛ライン、突破されます!」
「空軍のCAP機はどうした!?何?応答しない!?なら増援を要請しろ!」
「敵編隊依然接近中。B17監視塔、通信途絶!」
部屋の中に入るまで中央の指揮コンソールにしがみつくようにして指示を出していた副官が、青白い顔を隠そうとせずにこちらを向く。
「大佐っ!」
「ご苦労」
ねぎらいの言葉をかけてやってから、コンソールの定位置につく。各エリアとの情報リンクによって周辺の状況を映し出すモニターに目をやると、現在の状況が一目で分かった。敵は、鶴翼陣形でグラティサントを挟み込むかのような勢いで南東から接近してくる。グラティサントの大きさを考えれば、それはかなりの数になるはずだ。これほどの進攻を、開戦以来グラティサントが受けたことは無い。連合が本格的に攻めてきた、とも取れなくはない大変な事態だ。いままでに無い非常事態に、オペレーターの一人が涙声になって呼びかけてくる
「敵編隊の数、およそ120!距離80マイル、毎時約600ノットで、依然接近中!会敵まで、およそ8分っ!司令っ!」
「うろたえるなっ!!」
若い士官の声を遮るかのような勢いで、大佐の大声が響く。一瞬しんとなった指揮所に、再び大佐の声が鳴り渡る。
「この程度の攻撃、グラティサントなら耐えられる。総員、戦闘配置!」
「ら、ラジャー!総員、戦闘配置。全対空砲、迎撃モードへ移行!」
ボウマンの声によって、混乱していた指揮所内部に冷静な空気が流れ始める。オペレーターたちも、いままでの働き以上に自分の仕事をこなし始める。
「第1から、第5までの迎撃システムを立ち上げます。装弾システム、稼動開始」
「中央指揮所を通して、空軍南部方面軍司令部に救援要請。近隣の空軍基地から、スクランブル発進した部隊がこちらに向かってい
す。第1陣は、10分後に到着予定」
「敵部隊、依然接近中。現在地、エリア、N3E9。会敵まで、残り5分」
いつものように、受け持った分担をこなしていっている部下達の姿を見ながら、ボウマン大佐は今回の連合軍の攻勢について考える。
(今朝にあれだけの敵を撃退したにもかかわらず、これほどの戦力を、しかも短時間で投入してくるとは…。連合側の今回の攻勢がただ事ではない、ということか。連中は、本格的にここを攻め落とす気の様だな)

ボウマン大佐には、これが通常の攻勢であると思えた。実際には、連合国内部での確執が生んだちぐはぐな攻略計画であるのであるのだが。ベルカ側にとっても、連合軍側にとっても、今回の攻勢ははじめての試みだった。ウォール・ウォッシャー作戦が頓挫した時点で、次の作戦に対する準備のために数日は作戦行動が停まる予定を、無理やり繰り上げてヘルバウンド作戦を実施しているのだ。当然、どこかに綻びが現れることは上層部の間では折り込み済みだった。むしろ、一部ではそれを望んでいるともいえる。戦場で何が起きるのかを理解しようともせずに、目先のことだけで立てられた作戦。それが、『ヘルバウンド』だった。

「大佐」
副官の呼ぶ声で、思考を一時停止する。
「総員、戦闘配置に付きました。全対空砲、スタンバイ完了」
「よろしい」
そう言ってから、出来るだけゆっくりと動きながら、指揮所を見下ろす位置の司令席に腰をかける。こういった小さな動きも、部下を安心させるのには効果がある。まして、今回の戦いはかなり熾烈を極めそうだ。自分の気を落ち着かせる意味でも、ゆっくりと、だが緊張を保ったまま椅子の真正面を向く。そして、束の間の静寂が指揮所を包んだ後、ボウマンのこれまでにない気合の入った声が響く。
「戦闘開始!グラティサントの力を見せてやれっ!」
ボウマンの言葉に答えるように、上部構造物に設置された対空ミサイル発射機から白煙が上がり、火炎を迸らせながらミサイルが敵に向かっていく。



<<ベルカ本土に侵攻するのが、核査察、とはね。たいしたジョークだ>>
<<ガルム2、敵は目の前だ。文句を言う前にグラティサントを叩く事を考えろ。奴らの防衛能力さえ叩けば、作戦は成功だ>>
無線から、呆れているともうんざりしているとも取れるような口調で呟くフォルクの声が聞こえる。それに対して、AWACSのほうはいつもの冷淡口調だ。午後から降り始めたらしい雨が霧を立ちこめさせている所為でグラティサントの全体像は見えないが、そろそろ敵のほうもこちらに気づいていい頃だ。
<<南側にあるサピンの空軍基地を前線補給基地として確保してある。また、余裕のある機体はウスティオにも行ける。補給、離脱の必要性を感じたら直ちに帰還しろ。命あっての物種だからな>>
ジェームズ・グリアー中佐の台詞が、単なる仕事や気遣いで出たのではないのは、おそらくこの作戦に参加した人なら誰でもわかっているはずだ。
今回の作戦は、今までの反撃作戦とは趣が違う。反撃ではなく、侵攻作戦だ。連合側、特に、オーシア至上主義者として有名な上院議員、ハロルド・アップルルースなどは、これはベルカの核による未然の脅威を防ぐ為の正当な行動だと言っている。確かに、ベルカ側の主張を鑑みても、強引としか言いようのない部分はある。しかし、ベルカ戦争の根底にあるものを見直してみれば、それは経済的恐慌に陥っていたベルカを更に追い込むこととなった東部自治領の独立、及び、五大湖周辺地域の開発計画の頓挫が原因だ。
五大湖周辺のオーシアとの共同開発は、オーシア側からベルカ政府に出された試算が上方修正されており、ベルカ側は結局資源の乏しい地域の開発のために自国領土を削り、資金を無駄に投資しただけの結果に終わっている。東部自治領については、元々独立の気運の高まっていた時期でもあったし、天然資源等の経済的な利益も少ないであろうという試算が、ある地質大学から出されていた。だが、それ自体が、オーシア系など複数の多国籍企業の意向を汲んだ下方修正済みの結果であり、ここでもオーシアなどの利権が絡んでくる。結果、精密工業を中心としたウスティオ共和国が誕生し、切り離されたベルカとは違って経済は安定した上昇傾向を見せるようになり、さらに国内での大規模天然資源の発見まであったのだ。本来ならば、疲弊したベルカの産業を活性化させることになったであろう、ウスティオ共和国の経済を、潤させてなお有り余るような量の天然資源。
つまり、彼らの領土奪還自体に正当性はあるのだ。ただし、そのやり方があまりにも強引過ぎた為に、逆に自らを追い込んでしまう結果になったが。
つい数日前、国連安全保障理事会で決議された決議1104号は、連合国側へのベルカの絶対的な服従ともいえるようなことを要求する、脅迫文にも近い内容だった。しかも、その決議の細かい内容がよく知られている国が少ないらしい。翌日、ほとんどの国の新聞は、ベルカ公国国連大使が決議場から退場間際に放った言葉、『報復計画』のことに関する軍事評論家のコメントやら、戦場で勇敢に戦う自軍兵士の活躍を報じるプロパガンダで埋められていた。まさに、国際社会からの切り離し。ベルカが、国家としての体裁を保ったままこの戦争を終えられる確率は、限りなく低くなっていた。そして、その先鋒の一つとして、私が飛んでいる……。

今は、政治のことで思考を巡らせても意味はないし、必要ない。酸素マスクをヘルメットに固定し、バイザーを下げる。軽く深呼吸をしてから、戦いを始める言葉を口にする。
「ガルム1、エンゲージ」
私の言葉に続いて、今回参加の多くの航空機がコールをするのが聞こえる。
<<こうなったら最後までついてくぜ。ガルム2、エンゲージ!>>
<<メナス隊、墜とされたら報酬も酒もなしだぞ!エンゲージッ!>>
<<サックス1、エンゲージ。目標へ向かう>>
<<ハウンド隊、生き残る事を考えろ。交戦!>>
<<フェンリル隊、勝利の美酒を我が手n<<余計なこと言ってないでさっさと行くっ!>>・・・はい…>>
<<ふふふっ。・・・ダルモエード3、行きますです!>>
<<ハンター1から全機……目標を殲滅しろ>>
<<シェイド、行くぜっ!誰がトップスコアを出すか、競争しようじゃないか!?>>
<<ワイバーン、交戦!今日のエースは俺が頂く!>>
それぞれが自分の担当空域に向かっており、距離の上では離れているはずなのに声はぴったり揃っている。気が合うというのか、それとも敢えてそうしたのか。
《来たぞ、連合の奴らを迎え撃てっ!》
どこからか、敵の無線が混戦してくる。それと同時に、コックピットにAAM警報が鳴り響く。
<<ミサイルだっ!ブレイク!ブレイク!>>
誰かの警告よりも早く、体は回避の為の行動を取っている。フットレバーを思いっきり蹴飛ばし、操縦桿を力の限り引く。すぐに、雲の切れ目から近づくミサイルの影が現れ、高速で通り過ぎていった。近接信管が作動したのか、それともよけきれずに何機かが餌食になったのか、薄く張った雲の向こう側に爆発の光が一瞬現れ、そして消えていく。ほんのひと時それを眺めた後は、目の前に迫る敵の反応に集中する。敵の要塞は、山の頂を覆うかのように配置され、山の中腹付近には搬入口か、もしくはヘリパッドも見える。雨が降っている所為で山全体の姿はうっすらとしか見えないが、もしこれ全てが要塞化されているのならたいしたものだ。この地の優位を見抜いたベルカの先見性が伺える。事実、グラティサントは連合側からの進行を食い止める盾としての役割を、存分に発揮している。その山の頂に、火炎が迸ると共に雲を吹き飛ばすかの勢いで対空砲火の火線が打ち上げられて来る。無理に避けようとせずに、対空砲火の薄い部分、あるいは流れが途切れた部分だけを探し、徐々に、徐々に要塞に近づいていく。辺りを確認すると、すぐ左後ろにガルム2、他の機体もおのおのの攻撃位置についている。
<<ロケットランチャーのロック解除。ワイバーン、ファイア!>>
エメラルド塗装のグリペンのパイロンに搭載されたロケットポッドから炎が噴きだし、いくつものロケット弾子がグラティサントの城に向かっていく。城の外壁に到達した弾頭が炸裂し、花火のように火炎を作り出すが、対空砲火は僅かに緩んだ程度。すぐさま、発射地点に向かってお返しとばかりに花火を打ち上げる。
この程度では、グラティサントは落ちない、ということか。
<<おわあああぁぁぁ!!!>>
無線で悲鳴が聞こえてきたが、途切れることはなかったのでさっきの機体は撃墜されてはいないのだろう。気にせずに、さらに要塞へと近づいていく。近づいていくたびに、対空砲火が激しく、そして濃密になっていく。周りが花火よりも激しい光に包まれる中、私は体の奥から沸き起こる歓喜の念に気づいていた。体の芯の芯から沸き起こる、破壊と殺戮衝動。戦いという命の駆け引きの場にいるとき、どうしようもなく高ぶる私の心を、自ら止めるすべを持っていない。目の前まで迫った城壁の外縁、対空陣地の土嚢が詰まれた場所に向かって、機銃を掃射する。こちらに向かって火線を吐き出していた機銃はすぐに破壊され、弾薬に誘爆したのか、陣地の内側からの爆風で土嚢が吹き飛ばされていく。すぐさま右に旋回し、城壁沿いに北側へと飛びぬける。後方でも、ガルム2が攻撃を加えている。投下された爆弾が陣地の中に飛び込んで、爆風が城を揺るがしている。
<<あの穴倉に、ミサイルを叩き込め!>>
<<こんなところに出撃するとは…ひょっとして、サイファーとピクシーの腕にあわせて作戦を立てたりしてないだろうな?>>
<<俺たちにまで無茶させるなよ、ガルム隊?>>
<<こちらガルム2、無駄口叩いて落ちんじゃないぞ!>>
《ここは俺の生まれ故郷にも近い。一歩も近づけさせるな!》
さまざまな攻撃方法で要塞に向かってミサイルを撃ち込んでいる味方機。グラティサント単体の迎撃能力は高いといっても、今回の作戦に投入されている味方機の数が許容範囲を上回っている。元来、要塞と航空部隊の連携を持って連合側の攻撃を防いできたグラティサントだが、今度ばかりは傭兵という予測不可能な人種を相手にしたこと、そして何よりもその数の多さが災いして、本来の能力を発揮しきれていなかった。また、航空部隊の増援がまだ到着していないのも、災いとなっている。
私たちはいったん距離をとってから、再度目標に狙いをつけて一気に駆け降りる。私たちとほぼ同時に攻撃を行った味方機のおかげで、A地区のあちこちで黒煙が上がっているが、それでも敵の抵抗は激しい。私たちより遅れて要塞に攻撃を仕掛けようとした味方機のうち2機が炎を吹いて、1機は錐揉み状態で山肌に激突し、もう1機が要塞を飛び越えてから空中爆発した。いずれも脱出は確認できなかった。お返しとばかりに、目の前の対空砲に向かってサイドワインダーを打ち込む。ミサイルの赤外線シーカーが加熱した砲身を捕らえて、至近で炸裂する。飛び越えた私の機体を追おうと対空砲が旋回するが、すぐ後ろにいたガルム2がそれを捕らえる。ほぼ直撃に近い形で爆弾が対空陣地に突入し、いくつもの対空砲とその近くにいた兵士たちをなぎ倒していく。さらに近付いてくる味方機が次々と爆弾、機銃、ミサイルを撃ち込んでいき、そのたびに要塞の上部に爆炎が上がる。やがて、空を染め上げるほどの対空砲火を打ち上げてきた要塞の攻撃が下火になり、ついには途絶えた。同時に混戦して聞こえてきた敵の無線。
《『エリアゲート』の全兵士へ!内部の第3フロアで火災が発生している。至急外へ退避せよ!繰り返す!・・・》
退避を促す警告が流れ、要塞の入り口から兵士たちが逃げ出してくる。その人の波が途絶える前に、内部から紅蓮の炎が噴出して入り口の近くの兵士もろとも要塞を焼き尽くしていく。そんな光景の中、高揚感を感じている私……。
<<こちらイーグルアイ、A地区の沈黙を確認。引き続き、ほかの地区に当たれ>>
イーグルアイの指示に従って、A地区を担当していた部隊がほかの地区へと散っていく。
<<ピクシー、急がないと俺様がターゲット全部もらっちまうぞ?>>
そう言って、バンクを振ったMig-29が西に向かっていく。レーダーの広域表示を見る限り、ほぼ各エリアで味方が交戦状態にあるようだ。A、B共に前哨地点としての役割が強いのか、友軍が既に敵を押さえ込んでいるらしい。だが、北側の地区ではあまり戦果が振るっていないようだ。その中で一番近く、かつ敵の反応が多いのは、E地区。ここから、向かって北西の方角。
<<相棒、これからどうする?>>
右前方から左後方に移ったフォルクへの返事の代わりにスロットルを目一杯押し込んで、A/Bで北西に向かう。
たとえようもない、高揚感を内に抱いて、青い翼が狂喜と共に翔る。


[エリアタワー 16時22分]
"Area Tower" 1622hrs. 17 May 1995

「そろそろ、敵の対空網に引っかかるぞ。緊張して落ちるなよ?」
そういいつつも、自分自身もかなり緊張しているのはわかっている。しかし、隊長という職務を勤めているのだから、部下には気取られないようにしなくてはならない。自分の予告どおりに、敵の長距離対空砲、SAM発射機がこちらを狙ってきている。コックピットにロックオン警報が鳴り、それが悲鳴のような警報に切り替わる。
「ブレイクッ!」
すぐさま編隊を解き、一気に雲の下まで降下する。部隊の連中も各々の回避コースを取っているが、1機だけ回避が甘かった機体がいた。
<<ハウンド5、機首を下げろっ!>>
<<うわあ!こっちじゃなかった!?>>
瞬きをする間に近づいた長射程ミサイルが、右旋回中のハウンド5のX−29に近づいていく。あわててチャフとフレアをばら撒いて機首を下げ始めるが、間に合うのか?生死を分ける数瞬が過ぎるが、ミサイルは機体の近くを通り過ぎた。ほっとしたのもつかの間、ミサイルはまるで蛇が獲物に再び襲い掛かるように回り込んでくる。
「くそ!高機動ミサイルだっ!」
一度回避した程度では、最新型のミサイルはもう一度目標の予測位置に向かって飛び続け、再度目標を補足するようにプログラムされている。このままだと、5番機か近くにいる友軍機がミサイルの餌食になってしまう。考えるよりも、操縦桿を動かすことのほうが早かった。機体を近付くミサイルの方向へ向かわせる。雨の降る曇り空の向こうに、人口の雲を引きながら疾走するミサイルの白い弾頭が見える。右から左へと動くその影が徐々に左方向へのベクトルを緩めていき、やがて一つの点となってこちらに向かってくる。
<<隊長!?なにやってんですか!!回避をっ!>>
部下の警告の声が聞こえてくるが気にせずに機体を反転、山の中段にある遺跡跡付近に向かって急降下していく。ミサイルも、一番反応の大きいこちらを追尾して、降下してくる。後ろを確認し、正面の水蒸気で曇る谷間を睨むと、敵が放った照明弾の明かりが瞬いている。うまくこの熱源に騙されてくれればいいが、下手をすればミサイルの直撃を食らいかねない。先ほどの緊張など比較にならないほどの、圧迫感。眼下を高速で通り過ぎる山肌、後方から徐々に徐々に近付いてくるミサイル、さらにレーダーアラートが鳴り響き、正面の遺跡の小さな城壁の中に設置されているらしい敵のSAMから再びミサイルが発射される。
‐‐これじゃあ、泣きっ面に蜂だな…。そう思いつつも、F-20をさらに加速させていく。キャノピーの向こうの照明弾があっという間に通り過ぎたその先には、敵の新たなミサイルが迫っている。すぐさまフットレバーで機体を横滑りさせつつ、機体を一気に下向きに降下させる。強烈な逆Gがかかり、頭に血が上って視界が赤くなっていく。しかし、ここで目を閉じる訳にはいかない。視界が赤く埋まりかける瞬間、キャノピーの向こうに城壁の切れ目を見つけて、一気に機首上げ。今度はさっきとは逆向きのG。内臓が体の中で上下しているのが分かる。機体の尾翼よりも高い城壁を掠めるように飛び去る一瞬、敵のSAM発射機をレティクルに捕らえてガンアタック。20mm機関砲がコンマ数秒発射され、砲弾が装置を貫いて装填されていたミサイルの弾頭を誘爆させる。炎が目の前を吹き上げる中、一気に機首を上げて山の上まで上昇するためA/Bを使う。後方を振り返ると、最終誘導に入っていた高機動ミサイルが山からのレーダー波の乱反射で目標を見失って城壁に突っ込んでいき、打ち上げられたおそらく赤外線誘導であったミサイルは自分の機体の後ろについていたミサイルの熱源と照明弾の熱源に惑わされて山肌に激突していった。上昇していく先に、散開していた部下たちが集まってくる。
<<たいちょ〜…。心臓が止まるかと思いましたよ…>>
レオの情けない声に、ほかの部下から笑い声が沸き起こる。逆に、一気に緊張状態から開放されたためにこちらは笑う余裕はまだない。そう思っていたのだが、自然と口からは言葉が出てくる。
「スターレイン曹長、今回の借りは、基地に帰投したら返してもらうぞ?」
<<なんでもいいですよ?何が良いですか?>>
「そうだな、お前の部屋にあるアイドルのポスターでどうだ?」
ふと自分の思い付きを口にして数秒の沈黙の後、無線にはレオの必死な叫びが響く。
<<だ、だめですよっ!あれは限定版で、今はもう手に入れるのも難しいんですからねっ!!大体、あれが俺の一番のお気に入りだって知ってるじゃないですかっ!!!>>
東洋の良く分からないゲームのアイドル勢ぞろいの限定ポスターを自慢げに部屋に飾っていたスターレイン曹長ならではの反応だ。苦笑して、いつの間にか自分のゲームの価値を口に出して計算しているレオの声をさえぎって指示を出す。
<<だから、あのゲームは僕が企業ブースまで出向いて……>>
「わかった、わかった。借りの内容は後で考えておくから、そろそろ目標のほうへ攻撃を仕掛けるぞ。ハウンド隊、準備は良いな?」
<<ハウンド2、スタンバイ!>>
<<ハウンド3から4、スタンバイッ!>>
<<ハウ…「よしっ、全機行くぞっ!!」……たいちょーがいぢめる〜……>>
情けない声を出しているレオも含めて、ハウンド隊の機体が一斉に目標に向かっていく。しかし、考えてみても不思議なものだ。ウスティオの反抗作戦が開始された当初は、金ばかりにしか目のない傭兵の様な人間と空を飛ぶのはいやだったが、今では当然として受け入れるだけでなく、むしろ頼もしいとさえ思っている。空の傭兵でも、片羽の妖精のような名高いパイロットにはあこがれていたのは確かだが、自分は軍人であることに誇りを持っていた。それがいまや、自分が嫌悪感を抱いていた傭兵と一緒に空を飛んでいる。本当に、不思議なものだ…。
目の前に迫ってきた、巨大なグラティサントの姿。いやおうにも、緊張感が高まっていく。だが同時に、その状況になれ始めている自分がいる気がする。戦争という状況に、感覚が麻痺し始めているのか………。

っ!!
頭を振って、一瞬自分の考えていたことを思考から引き離す。それは、今までの自分からはありえない考えだったからだ。
<<隊長?どうしたんすか?>>
「…いや、なんでもない」
(そんなはずはない・・・・・自分はウスティオ軍人として戦いの場に身をおくことを覚悟していたはずだ・・・・傭兵のような、やもめ暮らしにあこがれるなんて・・・・)
<<シェイドよりC地区付近の友軍へ、気を引き締めろ!でなきゃ落とされるぞ!>>
友軍機の警告に気を取り直すと、その言葉の通り今度は空を埋め尽くすさんばかりの閃光が雲の中で爆ぜる。何機かが直撃や至近弾を食らって編隊から離脱していく。
<<くっそ!破片が・・・>>
<<右翼に被弾した。離脱する!>>
<<仇はとってやる。野郎ども!やつらにたっぷり弾を食わせてやれ!>>
<<私は女でごさいます!それにこんなところで落ちるつもりは、少しもありませんです!>>
海洋迷彩のSu-37を先頭に、突撃体制を作った味方が一本槍に要塞に向かっていく。その中間付近のやや前方よりに、ハウンド隊の5機がV字隊形を保って降下していく。
「全機投下態勢!狙う必要はない、弾をケチるな!」
<<了解!>>
<<レオ、いきまーす!!!!>>
打ち上げられる対空砲火の中、HUDに表示されているビパーを要塞の上部構造物に合わせていく。中心の点と、塔のうち一つが重なった瞬間、翼下に積んだ爆装をすべて投下し、前方の友軍機に接触しないように慎重に機首を上げていく。
<<ハウンド5、投下!>>
<<シェイド、投下!>>
<<ダルモエード3、マグナム!>>
味方機も次々と兵装を投下していっては、いったん離脱して行く。一気に攻撃を受けた敵の攻撃がいったんは鈍っても、すぐにまた激しくなっていき、何機かが再び被弾してしまう。上空でいったん部隊を集めて、状況確認。
これで、残りの兵装は翼端の短距離ミサイルと機銃のみ。だが、まだ敵の反応は多い。いったん補給に戻るべきか、それとも…。
レーダーを確認すると空域に近付く敵機の影。今の位置なら、ちょうど味方の反復攻撃の際にこちらに到達するかもしれない。考えるまでもなかった。
「ハウンド隊、接近中の敵編隊を抑える」
<<分かりました。俺たちの腕前、見せてやりますよ!>>
威勢のいい反応に苦笑しつつ、機首を敵機の正面に向ける。部下たちも、この一ヶ月で随分と雰囲気が変わったものだ。正規兵として戦場を飛ぶだけでなく、傭兵たちとの交流が彼らを変えている。
そう考えてから、ふと気づく。部下たちが変わってきているのなら、自分も変わってきているのではないか?
いや、確かに自分は変わってきてはいるが、それは戦争の中で戦ってきたからだ。決して、傭兵たちが関係しているわけではいない……。
自分の内にある本当の気持ちをひた隠しにして、青い猟犬が翔る。


[エリアウォール 5月17日 16時37分]
"Area Wall" 1637hrs. 17, May 1995

「さてと、これはどうすればいいものか・・・」
目の前に現れた、高くそびえる塔。既に幾度も連合軍機の爆撃を受けているにもかかわらず、対空砲火が収まる気配を見せていない。むしろ、攻撃を加えていった連合軍機が、次々と対空砲に食われていく。
<<うわあ!やられたっ!墜ちる!>>
<<オメガ11、イジェークト!イジェークト!>>
《グラティサントで連合軍を止めるんだ!背後にベルカ本土があることを忘れるな!》
《遺跡の近くには近付くな!下敷きになりたいのか?》
<<このままじゃ、みんなここで落とされるぞ!>>
連合側の連中も良くやっている方だ。むしろ、かなりの腕前とも言えなくもない。銀色塗装のF-14が対空砲火の間を、まるでスキーのモーグルのように右へ左へとよけながら潜り抜け、爆弾を投下している。ほかの部隊も、負けずおとらずの腕前だ。それであっても、グラティサントの圧倒的な攻撃能力に押されているのだ。グラティサント本体が持つ戦闘力の高さが伺える。対空砲火が打ち上げられている範囲内に入ったなら、必ず変則的な機動をしなければやられてしまう。
<<こんな所なら、いったん退いてから出直したほうが…>>
誰かが無線でつぶやくのが聞こえる。そんなことを考えてしまうのも、仕方のないことだ。俺自身、この任務に対しては飽き飽きしているというのに、この攻撃の嵐である。なまじ、この作戦の裏側を知ってしまっているからこそ、今回の連合の仕打ちには余計にうんざりさせられる。
<<イーグルアイからE地区攻略隊、よく聞け。これよりA地区を攻略した部隊の一部をそちらの援護として廻す。状況に応じて支援要請を行え>>
AWACSのやけに冷静な声が、今日だけは逆に苛立ちを助長してしまう。
<<遅いっ!もっと早く味方をつれて来い!>>
<<たかだか数機増援があったところで、こいつはなんとも思っちゃいないぞ!?>>
口々に、味方が文句をまくし立てている。俺も、管制官に文句を言ったところでどうなるわけでもないと分かっていても、ほんの少しでも文句を言いたい気分だった。
「こちらソリッド1、イーグルアイ、もう少し増援を寄こせないか?戦力が少なすぎる」
文句も入ってはいるが、半分は本音だった。だが、AWACSからの返答は予想していたのとは違うものだった。
<<安心しろ、ソリッド1。増援には特別な連中を寄こしてある>>
何がどうして安心しろ、なんて台詞になったのかは知らないが、管制官が特別だと言ってるんならまあ信じてもいいのかもしれない。そんなことを考えて続く言葉を待つジョン・グラーフ。その後に出てきた言葉は、まさに期待通りだった。
<<全機に告ぐ、そちらに向かわせえた増援は、ガルム隊だ。繰り返す、増援はガルムだ>>
AWACSの発言を理解するのに、2秒ほど。いったん無線が沈黙に包まれるが、敵の攻撃は沈黙したりしない。すぐ直近で砲弾が炸裂して機体を揺らしている。
「うあ!…くそっ!」
すぐに機の進路を変更して、敵の照準から出来る限りはなれる。ほぼ安全な位置にまで離脱してから、もう一度AWACSに確認を入れる。
「オイ、本当にガルムなんだろうな?ウソだったら承知しないぞ!」
<<本当だ。各機、ガルム隊の到着まで戦線を維持できるな?>>
管制官の質問に、にやりと笑って心の中でガッツポーズを作る。ウスティオ傭兵部隊のトップエース、ロト隊やゲルブを撃破したやつらが増援に来てくれるなら、まさに鬼に金棒。傭兵に酒。姉御とジョンに他人をいじくるネタ。
「当然!連中が来てくれるなら、百人力だぜ!」
<<こちらフェンリル1、大いに同意です。もうひと踏んばりしてくるっす!>>
<<こちらも同じく。生き残る希望が湧いてきた!>>
ガルムが来ると聞いただけで、友軍の動きが良くなった。一気に活気付いた友軍機が対空陣地に臆することもなく突撃を敢行し、翼下に積んでいた爆弾を一斉に投下して離脱していく。今まで緩慢だったこちらの攻撃の手が激しさを増し、要塞のほうが徐々に追いつけなくなっていく。
《くっそ、ちょこまかと五月蠅いやつらめ!》
<<損傷した機体は、もう後退させろ!後はガルム隊に任せるんだ!>>
《右第二陣地、弾幕薄いぞ!何やってんの!?》
<<オメガ7が、やられた!オメガ隊戦力、20%喪失!>>
《落としてもきりがない。連合はどれだけ戦力を投入したんだ?》
やられていった戦闘機が炎を噴きながら城に激突し、最後の一矢で放ったミサイルがSAM陣地に飛び込む。城の城壁を突き破った爆弾が内部で炸裂し、近くにあったものを残らず破壊する。破片を受けた兵士が痛みにのたうち回り、やがて動かなくなる。戦場は常に死神の住処だ。いつ、どこでその鎌が振られるか、ただの兵士である俺たちにはわからない。
<<こいつは凄い…まるで弾丸が津波になって押し寄せてくるようだ>>
<<まだ戦えるのなら、戦うまで…>>
<<…もう少し柔軟に考えられないのか?相棒…>>
来たか……。無線で俺たちの戦乙女、サイファーの声が聞こえてくる。視線を南東に向ければ、増援部隊と片羽の赤いイーグルを引き連れた青い塗装のホーネットの姿が見えた。その青い翼が降り続く雨をはじいて、後方に雲を引いていく。
<<ガルム1、E地区の敵に対して攻撃を仕掛けます>>
<<ガルム2交戦!残りの爆弾は全部投下してやる>>
2機編隊で突入していくガルム隊が先頭となって、友軍機が戦闘空域に突入してくる。増援の到着に沸きあがる味方たち。手始めに上部の対空陣地を一つ潰したガルム隊の後ろにも、友軍機が続いている。
<<随分とてこずってるな…。ハンター隊、蹴散らせ>>
やけに低い声で男がつぶやくと共に、黒い塗装を基本としているスホーイ系統で編成されている部隊が攻撃を行う。隊長機と思われるのは、なんとSu-47だった。あんな特殊な機体を使いこなせるやつは、そうそういるもんじゃない。だが、その男は見事といわんばかりにあの扱いの難しい機体を操っている。そのほかの機体も、山腹に設置された掩蔽壕から打ち上げられる火線を潜って黒いSu-32がミサイルを叩き込んでいったりと、随分と頼もしい増援に、味方からさらに歓声が上がる。俺自身も、若干調子に乗って声を上げる。
「ようし、全機行くぞっ!ガルム隊にだけいいとこみせるな!」
<<フェンリル1、りょーかい!稼いでやりますよ!>>
活気付いた戦闘部隊に勝る戦力はないだろう。ジョン・グラーフは自らが操る赤縁の黒いSu-37の操縦桿を握りながら、戦場での頼りになる仲間がいることに、喜びを感じている。その感情は、グラティサントの空を飛ぶ連合の兵士すべてが抱いていたことだった。

<<イーグル1より、サックス1。いい腕をしているな?>>
<<あんたもな、ディクソン大尉。オーシアの正規部隊にしては、腕は確かだな>>
<<ほかの部隊がどうか知らんが、俺のところは信頼してくれていい。それと、呼び方はディックスで良い。みんなそう呼んでる>>
<<了解、ディックス。もう一仕事行くとするか?>>
<<OK!>>
オーシアのF-22Aと、ウスティオのF-14Dが翼を並べて、要塞へと向かっていく。対空攻撃をものともせずに掻い潜った2機が攻撃を加えて離脱する。

<<ちっくしょう、こっちに来て初めての戦闘だってのに、まともに活躍できてねえぞ!>>
<<ぼやいてる暇があったらロケット撃ちこめっ!要塞への突破口を開くんだよ!>>
<<り、了解!ワイバーン、掃射!>>
攻撃の最初のほうで躓いていたグリペンからもう一度ロケットが掃射されて、今度は敵の要塞の上部構造をなめるように爆発が上がる。その爆煙を影にしてSu-37が最接近して機銃を打ち込んでいる。

一気に勢いづいた味方の善戦に、ほかの地区も戦闘のペースをこちらに持ち込み始めてきている。
<<行けー!当たれー!ついでに報酬も増えやがれ!>>
<<増えませんよっ!!>>
<<目標7機を撃破!次ぎ、8機目っ!>>
<<次でミサイルは最後でございます。ダルモエード、発射!>>
次々と敵を撃破していく味方たちに、敵の反応も代わり始めてきた。
《このままだと、壁が崩れてしまう…。もうだめなのか?》
《オイ!第3区との連絡が途絶えたままだぞ!通信網の修復を急がせろ!》
《『エリアゲート』との連絡が不能!?どうなっている?》
《航空部隊は何をしている!!グラティサントを見捨てる気か!?》
徐々にだが、要塞の抵抗力が下がり始めてきている。このままならば、いずれ陥落も現実的になるかもしれない。ただし、いまだに非現実的と言いたくなる様な攻撃力を有してはいるが。眼下に見える、山を越える峠の斜面がむき出しになっている場所。すさまじい砲撃の破壊力が、深緑に覆われていたであろう山肌を丸坊主にしてしまったのだ。
「下を見てみろ。凄いな…」
<<砲撃の痕か…。あれは、連合軍の戦闘機の残骸か?>>
山の中腹付近に、黒い塗装をした戦闘機らしき破片が散乱しているのが見て取れる。そのほかにも、大小さまざまな"元"友軍の成れの果てが山の裾野に広がっている。彼らも無念であっただろう。こんな地獄の入り口みたいな場所で命を散らしてしまった人間に、数秒ほど目を閉じて黙祷をささげる。かっと目を開いて、無線機に向かって喋り始める。
「ようし!連中の弔い合戦だ!ありったけの弾をぶっ放すぞ!」
機体をひねり、要塞に向かって飛び込む。他の部隊も、まだ戦闘の続く地区でも、多くの友軍がほぼ同時に突入していった。


死のサーフィンを踊るのは、空の勇猛なる戦士たち。彼らの戦いは、まだ始まりに過ぎなかった。




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